2013年1月22日火曜日
アルジェリア人質事件の背景に日仏の巨大なウラン利権(第2報)ニジェールのヒバクシャに思いを致そう .
http://tkajimura.blogspot.de/2013/01/blog-post_21.html
(第2報1月20日)
アルジェリア政府の発表と報道によれば、残念ながら人質事件は最低でも80人もの死者を出して終了したとのことです。日本人も多く犠牲になったようです。
Abd al-Rahman al-Nigri: AFP/ SITE Intelligence Group
この写真の男性はシュピーゲル誌電子版が19日 、アルジェリアのガス施設での人質事件の現場で死亡した→テロリスト襲撃部隊の指揮をした人物として報道したAFP配信によるものです。
同報道によれば、彼アブドル・ラフマン・アル-ナイジェリは事件現場から800キロ離れたニジェールの出身であり、これまでもアルジェリア出身の「聖戦血盟団」の首謀者モクタール・ベルモフタールの下で、多くの誘拐事件に関与した疑いがあるとのことです。同じくドイツ公共第2テレビ→ZDFも同日のニュースで同じ写真をモーリタニアの通信社からの報道として使っています。事件現場で彼が指揮をしている映像があるとのことです。
現時点で確認は出来ていませんが、この人物も下記のトゥアレグ族であると思われます。またこの人物については、→共同通信も同様の配信をしています。
これらの報道が事実であるとすれば、日本人も人質にされ、殺害されたこの事件の実行犯のひとりであることになります。いったい彼が決死の犯行に及んだ理由は何であるのでしょうか?
日本からは、東京新聞は19日の→コラム「筆洗」は次のように伝えています(全文引用させていただきます):
「フランスは地獄の門を開いた」。西アフリカのマリでイスラム武装勢力を率いる「赤鬚(ひげ)」の異名を持つ男が、こう語ったという▼まさに、地獄を見る 思いだ。マリの北隣アルジェリアで起きた人質事件は、鎮圧作戦実施が伝えられたが、人質の多くの安否は分からない。無事の知らせを待つご家族にとり残酷な ほど重い時間が流れる▼「地獄の門を開いた」とされるのは、フランスによるマリのイスラム武装勢力への空爆だ。マリで急激に台頭した勢力を叩(たた)きつ ぶそうという軍事作戦だが、この手の作戦がもくろみ通り進んだ例(ためし)は、ほとんどない▼なぜか。軍事作戦を進める側が、武装勢力の実像をつかめてい ないからだ。情報はここでも錯綜(さくそう)する。現地からの報道も「麻薬密輸や誘拐の身代金稼ぎの無法者」との情報もあれば、「権力が腐敗した地に秩序 をもたらし、貧困層対策で支持を得ている」との指摘もある▼恐らく、どちらも彼らの「顔」なのだろう。広大なあの地で反政府活動をする様々な人々を「テロ リスト」と一緒くたに呼び、ただ軍事攻撃の的とする限り、彼らの実像は見えてこないはずだ▼ドビルパン元仏首相が「この戦争はフランスの戦争ではない」 「戦争という袋小路から抜け出す新たなモデルをみつけるのが、わが国の義務だ」と言っている。悲劇を繰り返さぬための、各国共通の義務だろう。
これを読んでわたしが思い出すのは、日本の中国東北地方(いわゆる「満州」)と中国侵略の歴史です。ちょうど百年ほど前から日本はそこでの利権を追求し、そこを支配する軍閥勢力を「馬賊・匪賊」と呼び、陰謀と武力で排除しようとしました。「満州事変」を中国との話し合いで解決しようとした犬養毅首相は、五・一五事件で青年将校らに暗殺され、ここから日本の歴史は引き返すことの出来ない「地獄の門」を通過します。その後、「支那事変」では中国共産党軍を「共匪」と呼び、いまだに癒えない傷を中国に残し、地獄に転落しました。
ここでの「匪賊、共匪」 と、現在西アフリカでの「テロリスト」は上記のコラムが指摘するように発想が底通しているように思えます。
すなわち、「広大なあの地で反政府活動をする様々な人々を『テロ リスト』と一緒くたに呼」ぶ前に、「彼らの実像」を知るべきでしょう。
わたしも西アフリカの歴史と実情をあまり知っているとはいえませんし、極めて複雑な多くの武装勢力とその背景にある諸民族については欧米の報道程度の知識しかありません。それでも今回のアルジェリア人質事件の背景を知るために、この地方の現実を以下に簡単に述べますので参考にして下さい。
トゥアレグ族の居住地
左の図はサハラから西アフリカの原住民であり、遊牧と通商で有名な→トゥアレグ族・Tuaregの 居住地域です。国境をまたいでリビアを除けばほとんどがフランスの旧植民地諸国の5カ国が彼らの勢力範囲です。
インジゴーの衣服で有名な戦闘的な砂漠の部族としては有名です。
人口も推定で150万人までですが、ニジェールに70万人、マリに30万人いるとAFPは→歴史経緯の解説で伝えています。
彼らは、旧植民地宗主国にとっては、独自の文化を持つ誇り高い「まつろわぬ民」であり、反植民地闘争を続け、1960年代に植民地諸国が独立を果たした頃から独立国家を要求しています。
トァレグの家族
2011年のリビア内戦では、カダフィ側に傭兵としてつきましたが、政権崩壊とともにカダフィ政権の残したロシアとアメリカ製の高性能な武器を手に入れて、マリ北部を制圧し昨年4月6日に、彼らの長年の夢である「アザワド国」の分離独立を宣言しました。これを隣国ニジェールの大統領は→「アフリカのアフガニスタン」であると述べたとのことです。
この北部分離が原因で、アフリカでは例外的な議会制民主主義がそれなりに実現していたマリですが、事態に対処できない政府に対し軍事クーデターが起こって軍事政権となっています。これについては明日1月21日発売のシュピーゲル誌が→「地獄の門」と題する記事で次のことを報じています。電子版ではまだ読めませんのでその1部を紹介します。
それによれば、 アフガニスタンで懲りているアメリカは、直接の軍事介入はしないとこれまで表明していますが、実はマリで現地人トゥアレグ族を中心に合計600名の対テロ特殊部隊4部隊を訓練しています。ところが、よりによってその内3部隊が寝返って北マリのトゥアレグ族のイスラム原理主義者へ合流し、唯一残った1部隊がクーデターを起こしたとのことです。
すなわちアメリカはまさにアフガニスタンでオサマ・ビンラーデンを使い、それがイスラム原理主義を拡大させることになったと同じ失敗をここでも繰り返して臍を噛んでいるようです。
マリ中部のティブクツに進出したイスラム部隊AFP
マリ北部では「砂漠の獅子」と呼ばれるトゥアレグ族のアグ・ガリ傘下のイスラム原理主義のグループが勢力を伸ばして、急速に南下し続けています。制圧した地域では、タリバンのような→イスラム法・シャリーアを住民に押しつけ、禁じられているタバコの売買をしただけで右手首切断するような極端な処罰が行われているようです。
そのため北部からの難民が増加しており、一昨日の南ドイツ新聞のレポーターは首都バマコに逃げてきた手首を切断された青年2人の詳しい体験談を掲載しており、またドイツの公共テレビもマリから同様の報道をしています。
このままでは、まもなくマリ共和国全体が制圧される危険性があると判断したオランデ仏大統領は、昨年末の国連安保理での決議を経て予定されていた、西アフリカ経済連合諸国の連合軍組織の成立を待つことなく、先週の1月11日に軍事介入に踏み切ったのです。
フランス軍の戦車を歓迎するマリ住民/Spiegel-AFP
ここ数日は左の写真のようにマリの住民はフランス軍の介入を喜び圧倒的に歓迎しています。
しかし上記のシュピーゲル誌は、フランスの専門家の話しとして「軍事介入で都市部から反乱部隊を排除することは可能でも、広大な地域での遊撃戦となると解決は数年かかっても難しい」と伝えています。
トゥアレグ族の原理主義者たちは、訓練されており戦意も高く、なによりも自分たちの伝統的居住地の独立ないしは自治を求めているのです。
日中戦争での共産党軍の遊撃戦で点と線しか確保できず、ついには敗北した日本軍の経験に似た情勢となる可能性が強いとわたしは思います。また中東数カ国に分散して居住するクルド人のおかれた状況に似ているとも言えるでしょう。はっきりしていることは、武力ではこの問題は根本的には、決して解決できないということです。これを認識できない限り、いかなる権力でも必ず失敗します。パルチザンにはいかなる武力も無力であるからです。
さて、政治的状況から観れば、フランスの軍事介入は、放置すれば間もなくマリと旧植民地諸国が第二のアフガニスタンとなるとの判断があり、また経済的側面からは、アフガニスタンとは反対に、この地域の豊富な金、ダイヤモンド、ウランなどの地下資源への利権喪失への危機感があることも間違いないことです。そしてこの面では→前回第1報で示唆しましたように、日本も深くかかわっています。
ニジェールのウラン鉱山
この地域で日本が深くからんでいるのは、隣国ニジェール西北部のトゥアレグ族居住地にあるウラン鉱山抗採の利権です。
ニジェールは→世界最貧国のひとつです。住民の多くが日に1ドル ほどで生活している農業国で、たよりは世界第三の埋蔵量と推定されているウランです。
昨年7月には、震災関連の国際防災会議で、日本を訪れた同国の外相と玄葉外相が 会談し、→外務省のプレスリリースにはそれについて以下のようにあります。
(2012年7月4日外務省)
玄葉大臣から,「世界防災閣僚会議in東北」へのバズム外相の出席に謝意を表明しつつ,ニジェールからの我が国に対する40年以上に及ぶ安定したウラン供 給に代表される,良好な日・ニジェール二国間関係について言及し,さらなる関係強化のためにも治安の改善が重要であることを強調しました。
ではここで強調されている「40年にわたるウラン供給の良好な関係」とはどのようなものなのでしょうか。
日本のウラン供給先
日本は右の図に観られるように、ニジェールから13%ほどのウランを輸入しており、ある統計によると原子力発電が始まって以来、日本の電力需要の24分の1、すなわち毎日1時間ほどの電力は同国のウランによるものだとも言われています。
そこで、その内容をについてですが、下の図はエネルギー庁によるウラン供給先の権益のリストです。
エネルギー庁資料.
この図で見られるように、ニジェールのアクータ鉱山の権益に日本の電力会社が共同で立ち上げた→海外ウラン資源開発株式会社というまさに→日本原子力ムラ原料供給部門とも言える会社が、1974年より、25%出資しています。注目すべきはフランスのアレバ社が、ニジェール国営会社の31%より多い34%の筆頭出資で、事実上の権益主であることです。ニジェールはこの面では、独立しても依然として経済的にフランスの半植民地状態にあることを示しています。
この写真はアクータ鉱山株式会社(フランス名COMINAK)のウラン鉱山と、イエローケーキをつくる精錬工場です。この鉱山は広大なものです。
フランスは原子力発電のウラン燃料の多くの部分をここから供給しているのですから、ここの権益を守るためには軍事介入もためらうことはないでしょう。
では、トゥアレグ族の居住地の真ん中にあるこの鉱山が住民にとってどのようなものであるのでしょうか。
最近の→ルモンド紙のひとつの記事を→ふらんすねこさんの翻訳で参考にしましょう。
アフリカのウラン産出国を汚染し続けるアレバ社、住民の被ばく被害を放置:環境団体は共同事業を解消/ ルモンド紙(2012年12月18日)
アレバ社が掲げる「責任ある企業」のイメージは、無残に切り裂かれた。アレバ社が原子力発電の燃料となるウランを採掘する西アフリカのニ ジェールとガボンにおいて、同社と合同で周辺住民と鉱山労働者への健康被害を監視するための施設を運営する環境団体シェルパは12月18日、施設の共同運 営を解消することを宣言した。アレバ社が健康被害の監視施設を単なる同社の宣伝にのみ使用し、被ばく被害への救済を行わず放置していることがその理由だ。
2009年、アレバ社、環境団体シェルパ、世界の医療団の3組織は前代未聞の野心的な合意を結んだ。ウラン鉱山での採掘、特に放射性物質による被ば くが労働者及び周辺住民の健康に与える影響を監視するための医療施設を設置する、というものだ。こうした施設の設置は、CRIIRAD研究所とシェルパの 弁護士らが2003年以来合同で行ってきたウラン鉱周辺での被ばく被害に関する調査結果に基づいて実施されたものだ。
CRIIRAD研究所による調査では、アレバ社によるウラン鉱山の採掘は「労働者と住民の健康、および周囲の環境に悲惨な影響を与えている」との指 摘がなされた。周辺の水や土壌からは高い濃度の放射性物質が検出され、放射性廃棄物が住宅の近辺で野ざらしになっているのが発見された。放射線からの防護 に必要な設備は設置されておらず、労働者の健康状態に関する監視もなされていなかった。こうした諸問題について非難が寄せられたのである。
またある方が「もうひとつの暮らし」というブログでフランスの環境誌から優れた翻訳をされていますので引用させていただきます。
ウラン 牧畜民の不幸
フランスの大企業アルバにとっての幸運、ウラン鉱採掘は、ニジェール北部の住民にとって不幸の源でしかない。彼らの警告の叫びに耳を傾けなければならない。
ニジェールのソマイルとコミナ両子会社の名の下に、核の大手企業アルバがウラン開発を始めてから、すでに39年以上がたった。開発が許可されているのは、 牧草地で有名なニジェール北部の中心部に位置する。ここで10万tU以上のウランが採掘されているにもかかわらず、ニジェールは地球上の最貧困国のひとつ にとどまっている。
ニジェール政府から許可済みの地区では、ウラン開発の影響は深刻だ。土地からは標準を越えた放射線反応があり、住民、環境、 地下水は明らかに汚染されている。牧草地は極端に減少し、汚染された住民は適切な治療を受けられないでいる。企業は事実を隠蔽し、彼らが公開する情報のす べてが偽造されている。最も重要な事実は、鉱山会社の数ある病院が、労働者のなかで病気を患っている人は誰もいないと発表している点だ。病院としての資格 は有しているが、ここは養護施設でしかない。さらに、ウランは掘り出され、その場で取り扱われ、近くの港までトラックで運ばれる。そこでもまた、安全性が 無視され、交通事故によって村が汚染させている。
今日、多くの人が鉱床の採掘状況を告発している。こうした状況の影響は、住民の健康や環境を直撃している。CRIIRAD(放射能に関する調査・情報の独立委員会)と市民団体Sherpaは、企業の基本的義務に違反しているとして、被害について報告している。
特筆すべきは、ニジェール政府は現在にいたるまで何も学んいないどころか、探鉱調査と採掘に対して122の許可証を与えている点だ。その一帯はアガデズ地 方の9万㎡におよぶ。事前に何の情報も公開されず、住民は何も知らされていない。すでに2つの鉱区の存在が被害を生み出しているのだから、122の鉱区が 広範な土地に及ぼす影響はどれぐらいになるだろう。ニジェール経済の2番目に位置する牧畜産業、そして我々のような牧畜飼育者の将来はどうなるのだろう。
ニジェール政府はいつになったら、この国が脅かされている危険に気づくのだろうか。無意識なのだろうか、それとも悪意的なのだろうか。ここ10ヶ月、ウラ ンを巡って政治・軍隊の対立(2007年2月からストが起き、政府が武力で弾圧している)がニジェール北部で繰り広げられている。安全性の欠如の増大と地 雷原のなかで、2つの火種が激突し、住民たちは、自分の土地のウランの存在がもたらす劇的な結果に耐え忍んでいる。アイル地区がすでに最初の引っ越し場所 として挙げられており、イフェロワンの住民(2000人)はティミアに向けて移住をしなければならなくなった。
ニジェール政府が最高入札者に開 発許可を与え、国際市場でのウラン相場について交渉している最中に、ニジェール国民の一部の生存は脅かされているのだ。政府は、目の前の経済危機を恐れて いるのだろうか。開発によって国民と環境がどのような結末を迎えるか、それを知ることには気が回らないのだろうか。
新しい許可鉱区には、最良の 牧草地の一部が含まれている。そこは最も保存され、最も多くの住民が住む土地だ。アガデズの村から、イハゼールの広大な渓谷、インガルの村、そしてテギッ ダまでの一帯におよぶ。ウランで犠牲になる土地はもうこれ以上ない。アッサウアスの近くでは、中国企業CNUCがウラン採掘を行っている。ここでは、開発 許可鉱区から住民を追い出し、牧畜飼育者が放牧用井戸を使用することを禁止している。
ウラン鉱山の増加にともない、国民はどうなっていくのだろう? 我々の環境はどうなっていくのだろう?
環境と人間が大災難をこうむる姿がくっきりと見える。ニジェール北部の住民である我々は、人間の生命と、牧草地という素晴らしい資源を守るために、危険な状況を告発し、国内外の世論に支援を求めている!
飢えた人々に静かに忍び寄る死、執行猶予中の人間の命、こうした状況が、他の人たちを幸せにできるというのだろうか?
この優れた記事への 解説は不要でしょう。
このようにウラン鉱山周辺の人々を苦しめている核燃料が、原発事故で、同じように日本の人々を苦しめています。ニジェールとフクシマは放射線汚染で直接つながっているのです。
そして、2010年9月15日には、 ここのウラン鉱山のひとつのアレバ社のフランス人従業員5人を含む7人が、北アフリカのアルカイダグループ・Al Qaida au Maghreb Islamique (AQMI)に奇襲され誘拐される事件が起きています。従業員宿舎を警備していたニジェール軍が役に立たなかったのです。今回のアルジェリアの人質事件と同様なことがすでに起こっていたのです。
あまり長くなりま すのでこのあたりで止めますが、以上のように今回のアルジェリアでの悲劇の背景には、直接の契機ではなくとも、核燃料を巡る確固とした国際的利権関係があり、日本もしっかりと関与しているという ことです。
フクシマを襲った悲劇は、このように遠くの昔からニジェールの貧しい人々の悲劇として始まっていたのです。
これが「両国間の良好な関係(上記外務 省見解)」の実態なのです。核の利権ほど自然と人間に敵対するものはないのです。声を挙げられないニジェールのヒバクシャに思いをいたしながら。
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