2013年1月11日金曜日

手抜き除染は起こるべくして起こった (古賀ブログ) 東電救済が諸悪の根源 除染費用は100兆円も. http://financegreenwatch.org/jp/?p=25116 1月 12th, 2013 | ◆◆◆ kogashigeakiimages●驚くべき実態 1月4日の朝日新聞一面トップに「手抜き除染 横行」という記事が掲載された。その内容に入る前に、異様に寒かった12月中旬に1週間、計130時間かけて林や物陰に身を潜めながら取材したという4人の記者に敬意を表したい。 どのような手抜きが行われていたのか、かなり細かい具体的な話が作業員の証言と写真(後にテレビで映像も流された)で明らかにされた。集めた汚染土や枯葉などのゴミを川に流したり、山林などに放置したり、本来は回収すべき除染に使った水を側溝を通じて川に流したり、様々なケースが報じられた。他のテレビ報道では、そもそも除染をちゃんと行っていない(屋根をほうきで掃いただけ、とか雨どいを放置したまま、とか、20メートル程度除染しなければならない宅地周辺の林を2メートル程度刈り取っただけなど)ケースも報道された。当然のことながら、「除染」されたはずの民家の庭先で線量計が高い数値を示すケースも非常に多いこともわかった。 しかも、驚くべきことに、このような手抜きが、ごく一部のふとどきな作業員によって、隠れて行われたのではなく、現場監督や元請の企業からの指示で組織的に行われていたというのだから、これはかなり根の深い問題だととらえなければならない。 ●これは全国民に対する裏切り行為である 今年から、復興増税として、我々国民も所得税や住民税の増税で負担を強いられる。国民は、被災地の人達のためだからということで、納得してこれに応じている人が大半だ。一般市民からの義捐金と同じものだという感覚があるからだろう。今回の手抜き除染は、被災者に対するとんでもない裏切り行為であると同時に国民に対する深刻な背信行為でもある。だから、こうした行為をした人々や企業に対する憤りをテレビのコメンテーターたちが声高に叫ぶのも当然だろう。 しかし、実は、こうした事態は、むしろ起こるべくして起こったというのが事の本質に近いのではないかと私は見ている。まず第一に、除染したゴミを決められたとおりに集めて保管しようとしても、そのための場所が実は確保されていない。決められた手順は、絵に描いた餅なのである。この点を、細野豪志前環境大臣が他人事のように指摘して、何と無責任な発言をするのかと顰蹙(ひんしゅく)を買ったようだが、大臣でいる間、除染がちゃんと進んでいるという嘘をつき続けたことの方が問題であって、今回の発言そのものは、ようやく本当のことを言ったというだけのことである。 第二に、決められたとおりに作業をしていたら、想定されたスケジュールで除染を進めることはできない。除染に使った水を全て回収するなどというマニュアルを決めても、それを本当に実行していたら、大変な手間になる。実際に線量を下げるには、周囲の広大な土地の除染をしなければならないが、それには何倍もの時間がかかる。そうなれば、指定された期間内に作業が終わらない。 ならば、どこかで手を抜くしかない、という考えになってしまうことは、決して容認されることではないが、実は誰でも容易に想像できることだろう。その像力が働かなかったのか。いや、働かせなかったのか。 ●根本的な問題は「東電救済」にある 第三に、第二の問題と絡むが、まともな除染を行おうとすれば、ほとんどのケースで予算オーバーになってしまうということだ。除染のモデルケースを想定して作業手順が決められているが、現場の状況は一箇所ごとに違う。モデルケースのように進むことはむしろ少ないと言った方がいいだろう。しかし、一度契約してしまえば、その予算の範囲内で終わらせなければならない。 本来は、一軒ごとに現地調査をして、細かい除染計画を作り、それによって予算を出さなければならないはずだ。また、除染ははじめての作業であり、決めたとおりにやってもうまく線量が下がらないこともある。その場合は、やるべきことをやった上で、追加の作業を行うことを認めたり、あるいは、作業の途中でも実態に合わせてその内容、やり方を変えながらきめ細かく除染を実施したりすることが不可欠だ。 しかし、それを実際にやろうとすると、膨大な費用がかかる。業者の事業費だけではない。行政の側の人手も何倍もかかるだろう。結果的に除染費用は10兆円単位、さらには100兆円単位まで膨らむ可能性が高い。いずれにしても、今の予算の組み方では、除染など到底できないのである。 第四の問題は、最も根源的な問いだ。手抜きでない、本当の除染をやる場合,その費用は誰の負担となるのかということである。これは、当然東京電力に請求されることになる。数兆円単位から数十兆円、数百兆円まで費用が膨らむ可能性が取りざたされれば、それだけで東京電力の破綻状態というのが明らかになる。 しかし、政府の絶対に譲れない方針は、原発事故を起こした東電は潰さないというものだ。その大前提は、除染計画ができるよりはるか前に決定されていた。これは実は本末転倒の議論なのだが、破綻しないと言ってしまった手前、破綻しない範囲でしか、東電に責任を負わせられない、という状況になっているのだ。 第五に、さらに問題が難しくなるのは、いま原発の再稼働が問題となっていることだ。その議論の前提になっているのは、原発のコストが安いという政府、電力会社の主張だ。しかし、仮に事故の際のコストが一気に二桁も上がるということになれば、その議論にも影響が出る。ある程度の上昇は覚悟していても、桁違いの費用がかかるとなれば、原発のコスト論の根拠が揺らぎかねない。従って、本当の除染コストを認めるわけにはいかないというのが、政府側の事情なのである。 ●現場の悲鳴 一昨年の春に原発事故の被災者対策を政府が検討する際に、そこに出向していたある若手官僚が言った言葉が耳に残っている。「古賀さん、被災者対策と言いながら、実は、東電擁護のための対策なんですよ。損害賠償の基準を決めるときに、こうなるといくらかかるのか、ああなったらどうか、と心配しながら基準作りをしている。本来どこまで賠償すべきかではなく、何とか負担を小さくしようという観点でやっているんです。経産省の出向者が牛耳っていて被災者の方に目を向けるのではなく、電力会社の方ばかり気にしているのが見え見えなんです」 ある被災地の除染担当の課長さんの話も印象的だ。「どうやったらいいかなんて、誰もわからないんです。それなのに、中央で決めてこれでやれと言ったって、結局うまくいかない。自治体と地域住民に任せてくれれば、試行錯誤で一番良い方法を考えながらやりますよ。今は、どうやって国の基準に合わせるか、そんなことにエネルギーを費やして、本当に実効的な除染ができなくなってしまってるんです」 そして、こう付け加えた。「今、除染の作業員が不足して困ってます。除染は元々あまり人気のある仕事ではない。これから補正予算で全国に公共事業予算がつくんでしょうが、そうなると、今うちに来てくれている、関西や沖縄などの人達も地元に帰っちゃうんでしょうね。どうやって人手を確保するのか。きっとますます作業が遅れることになりますよ。住民の皆さんにどう説明したらいいんでしょうか。」

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