2013年2月13日水曜日

プルサーマル導入-その狙いと危険性.京都大学原子炉実験所 小出 裕章. http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/kouen/kanazawa.pdf Ⅰ.プルトニウムは長崎原爆の材料 第2次世界戦争のさなか、米国はマンハッタン計画と呼ばれる原爆製造計画を遂行し20 億ドル (当時の為替レートで換算して86 億円、太平洋戦争に突入した1941 年の日本の国家歳出と同額) の費用と、5万人(多いときには12 万人とも言われる)の科学者・労働者を動員して、原爆を開 発した。マンハッタン 計画の中で行われた作 業の概略を図1に示す。 まずはじめに取り組ま れたのは、ウランを材 料にして原爆を作る作 業で、図1の左端に沿 った流れである。天然 のウランの中には燃えるウラン、つまり核分 裂性のウラン(ウラン 235)がわずか0.7%しか含まれないが、原爆を作るためには その割合を90%以上に高めなければならず、そのために必要 な作業を「(ウラン)濃縮」と呼ぶ。その作業は厖大なエネル ギーを必要とする。広島原爆は約30kg の93%濃縮ウランで 作られていて(約50kg の90%濃縮ウランとの説もある)、た った1 発の爆弾がTNT 火薬1 万6000 トン分の爆発力を示し た。しかし、それだけの濃縮ウランを得るためには、「濃縮」 という作業をするためだけにTNT 火薬5 万トン分のエネル ギーを投入しなければならなかった(図2参照)。単にエネル ギーの投入量と発生量を問題にするならば、濃縮ウランで原 爆を作ることはまことに馬鹿げたことであった。そこで、マ ンハッタン計画では、図1の右端に示すような、プルトニウムを材料とする原爆を作る道に次第に力点を移した。プルトニウムは天然には存在しない元素だが、 まず原子炉を作って燃えるウランを燃やすと、発生した中性子が周囲にある燃えないウラン(ウラ ン238)に衝突して自然にプルトニウム239 が生み出される。そうして生み出されたプルトニウム を分離して取り出す作業が「再処理」である。結局1945 年の時点で米国は、濃縮ウランを材料と した原爆1発(リトル・ボーイ=広島原爆)とプルトニウムを材料とした原爆2発(トリニティ、 ファット・マン=長崎原爆)を作り出した。 今日、「原子炉」といえば、たいていの人は原子力発電を思い浮かべ、原子力の平和利用だと思う はずだ。しかし、もともと「原子炉」はプルトニウムを作り出すために開発された道具であったし、 「(ウラン)濃縮」や「再処理」も全ては核開発のための技術である。であるからこそ、今、イラン や朝鮮民主主義人民共和国(以下、「朝鮮」と表記)が核開発していると米国や日本から非難される のである。しかし、当の米国はもちろん、日本だって「原子炉」も「濃縮」も「再処理」もやって いる。そして日本は自分がやっていることは核開発でなく原子力開発だと言うのである。 (Ⅱ.破綻したプルトニウムサイクル.) プルトニウムは100 万分の1 グラムの微粒子を吸い込んだだけで肺がんを誘発するという超危険 物であり、数kg あれば原爆が作れる。そのため、1985 年にノーベル平和賞を受賞した核戦争防止 国際医師会議(IPPNW)はプルトニウムを「核時代の死の黄金」と名づけたのであった。何故、 これほど危険なプルトニウムを利用しな ければならないかといえば、燃えるウラ ン(ウラン235)だけを利用する原子力 では資源が余りにも少なすぎてエネルギ ー資源として役に立たないからである (図3参照)。原子力を推進する人々が、 日本は資源小国であるためどうしてもプ ルトニウムを利用する必要があると言う 所以である。しかし、プルトニウムを利 用するために必要な高速増殖炉は、決し て実現できない。原子力を意味のあるエ ネルギー源にするためには高速増殖炉が必要であることは原子力(核)開発の当 初から分かっており、核(原子力)先進 国ははじめ高速増殖炉の開発に力を注い だ。世界で一番初めに原子力発電に成功したのは米国のEBR-1 と呼ばれる高速炉で 1951 年12 月のことであった。ところが、高 速増殖炉は技術的・社会的に抱える困難が多 すぎ、図4に示すように、一度は手を染めた 世界の核(原子力)開発先進国もすべてが撤 退してしまった。核(原子力)後進国の日本 も欧米に10~20 年遅れて高速増殖炉開発に 取り組んだが、原型炉「もんじゅ」は1995 年の試運転の段階で事故を起こして停止して しまった。 日本の原子力開発利用長期計画(以下、長 計)による高速増殖炉実現の見通しを図5に 示す。高速増殖炉の開発計画が初めて言及さ れたのは、1967 年の第3 回長計であった.その時の見通しによれば、高速増殖炉は1980 年代前 半には実用化されることになっていた。この見通しが 当たっていれば、今から20 年も前に高速増殖炉が実 用化されていたことになる。ところが実際には、高速 増殖炉は想像をはるかに超えて難しく、その後、長計 が改定される度に実用化の年度はどんどん先に逃げて 行った。1987 年の第7回長計では、「実用化」ではな く「技術体系の確立」とされ、さらに2000 年の第9 回長計では、ついに数値をあげての年度を示すことす らできなくなった。5 年経つと目標が10 年先あるいは もっと先に逃げていくような計画は決して実現しない。 こんな馬鹿げた技術に日本はすでに1兆円を超える資 金を投入してきた。その上、再処理もまた決して実現できない。原爆は 超優秀な兵器であり、どんな犠牲を払っても開発する 価値がある。そのため、それを作る工程がどんなにカ ネがかかっても、どんなにエネルギーを浪費するもの であっても、あるいはどんなに危険を伴っていても、 (再処理の仕組み) すべてに目をつぶることになった。特に「再 処理」とは、「使用済核燃料」の中に混然一 体となっている「核分裂生成物」、「燃え残 りのウラン」、「プルトニウム」を分離する 作業である。原子炉の中では曲がりなりに も燃料棒の中に閉じ込められているそれら の物質を硝酸に溶かした上で、化学的に分 離する作業で、とてつもなく危険な作業で ある(図6参照)。たとえば、英国ではウィ ンズケール(原子力推進派は、セラフィー ルドと呼ぶ)に再処理工場があるが、図7 に示すように、これまでにすでに総量で120 万キュリー(広島原爆の400 倍) を超えるセシウム137 を内海であるア イリッシュ海に流してきた。そのため、 図8に示すように、すでにアイリッシ ュ海は世界一放射能で汚れた海になっ てしまっており、対岸のアイルランド 政府と国会は度々再処理工場の停止を 求めてきた。 それでもなお、日本政府は 青森県六ヶ所村に再処理工場 を建設しようとしている。今 年7月末現在、その工事の進 捗率は95%となっている。ご く近いうちにウラン試験、実 際の使用済核燃料を使ったホット試験を実施、2007 年には 運転を開始したいとしている。 しかし、建設開始当初は総額 7600 億円といわれた建設費 は、すでに2 兆1400 億円に 高騰した。そして、もし一度 稼動させてしまえば、工場全体が放射能で汚染さ れ、解体を含めた事業費は11 兆円になるとの試 算を電気事業連合会が公表した(図9参照)。この 試算自体も、原子力の発電原価が天然ガスなどと 太刀打ちできる範囲に入るように見せかけるため に意図的に過小評価して作り出された数値である。 原子力におけるこれまでの歴史が示してきたように、到底こんな金額で済む道理がない。 Ⅲ.苦し紛れのプルサーマル その上、高速増殖炉は動かないので、分離した プルトニウムの使い道はない。おまけに日本にはに、到底こんな金額で済む道理がない。 Ⅲ.苦し紛れのプルサーマル その上、高速増殖炉は動かないので、分離した プルトニウムの使い道はない。おまけに日本には英国・フランスに委託して取り出してもらったプルトニウムがすでに40 トンも溜まっている(図 10参照)。苦し紛れに考え出されたのが「プルサーマル」と呼ばれる計画で、お荷物となった「プ ルトニウム」を「サーマル(熱)中性子炉」(普通の原子力発電所)で燃やしてしまおうというもの である。しかし、「プルサーマル」は資源的には意味がなく、経済的にも安全性の面でもマイナスで ある。 (プルサーマルで増える資源はわずか) 今日原子力発電に利用している軽水炉は増殖炉で ないし、原子炉内で生み出される核分裂性プルトニ ウムの量は、燃やした燃料の約3割しかない。従っ てその全量をリサイクルして使ったとしても、資源 の量が3割増えるだけでしかない(図11参照)。す でに図3に示したように、もともとウランは貧弱な 資源であり、3割程度増えたところで、資源的には 意味がない。 プルサーマルに経済性はない 日本には 1977 年に当初計画(210 トン/年)で運 転を開始した東海再処理工場がある。その再処理工 場で処理した使用済核燃料は2003 年度末までの累積で1052 トン、稼働率は20%に満たない。年間 800 トンを再処理する計画の六ヶ所再処理工場も、計画通りに運転できることなど決してない。仮に計画通り40 年にわたって順調に工場が稼働したとしても、処理できる使用済核燃料は総量で3 万2000 トンであり、この値を認めることにしよう。すでに、図9にバックエンド費用の見積もり を示したが、この過小評価が確実な再評価でも、処理費とMOX 燃料加工費の合計は12 兆1900 億 円であり、その数値も認めよう。それでも、使用済核燃料1トン当たりの再処理費用は4 億円に達 してしまう。これ迄、日本の電力会社は英国・フランスに再処理を委託してきたが、その費用は1 トン当たり2億円程度である。こうまでして六カ所再処理工場を稼働させて、さらに再処理して得 られるプルトニウムと燃え残りのウラン235 の全量をMOX(混合酸化物)燃料にリサイクルして も、できる燃料の量は総量でも4800tHM。その分をウランを購入して充てるとすればわずか9000 億円で済んでしまう。1兆円に満たない利益のために、12兆円を超える資金を投入する企業など 一体どこにあるのだろうか? (プルサーマルは安全余裕を食いつぶす) プルトニウムが猛毒物質であることはすでに述べた。それとは別にプルトニウムを軽水炉で燃や す場合には、別の危険が付きまとう。軽水炉はウランを燃やすために設計された原子炉であり、プ ルトニウムは、①ウランより燃えやすい(核分裂断面積が大きい)、②ウランより制御しにくい(遅 発中性子割合が少ない)という性質を持っているため、それを原子炉の燃料に使うと危険が増える。 さらに、燃料の融点が低下したり、プルトニウムを燃料の中に均一に含ませることが難しいため局 所的な燃焼が進むなど、技術的な多数の困難を抱えている。従来の軽水炉さえ厖大な危険を抱えて いたのに、その軽水炉でプルトニウムを燃やせば、危険はさらに増大する。 Ⅳ.原子力を進める本当の理由 原爆の威力に眩んだ目 原子核のエネルギーを人類が手に入れたのは原爆としてであった。その爆弾としての威力が余り にすさまじいものであったため、その力をエネルギー資源として利用すれば大いに役立つとの期待 に転化した。当初、原子力は無尽蔵のエネルギー源で、値段をつけられないくらい安価なエネルギ ーになる、さらには、エネルギー密度が高いことから原子力発電所はコンパクトで都会の地下室に も作ることができるといわれた。私自身もエネルギー源としての原子力に夢を抱いた時期があった。 しかし、エネルギー源として使うには核分裂性ウランの資源量は少なすぎる。それを補おうとプル トニウムに手を染めれば、原子力の経済性は失われるし、厖大な危険を抱え込むとともに、核物質 防護の名の下「原子力帝国」が避けられない。 原子力発電所は決して都会に立てることができないまま半世紀がたち、他のエネルギー源に比べ て原子力が安価でないこともいまや明白になった。また、原子力は自らが生み出す放射能の始末の 方法を知らないため、「トイレのないマンション」と呼ばれたが、バックエンドと呼ばれる後始末費 用がとてつもない額となることも繰り返し試算されてきた。しかし、それらはその都度隠蔽されて きたのであった。もういい加減に原子力の夢から覚めるべき時だ。 (核を巡る差別) 現在、米国と日本は朝鮮が「核開発」をしようとしているとして非難し、「国際社会」なるものを 騙って、朝鮮に核の放棄を迫っている。朝鮮は韓国・中国・ロシアを含めた6者協議の場で軍事用 の核開発を放棄する用意はあるが、「平和」利用は放棄しないと応じた。それに対して、日本と米国 は「検証可能で後戻りできない形で、すべての核を放棄する」ことが必要で、「平和」利用も含めあ らゆる核(原子力)を放棄するよう圧力をかけている。。 朝鮮は日本による植民地支配の挙句に、大陸から来る共産主義への防波堤として米国によって分 断された。1950 年から始まった朝鮮戦争は1953 年に米国と朝鮮の間で停戦協定が結ばれただけで、 半世紀以上たった現在も米国と朝鮮は戦争状態にある。その一方の米国は巨大な核を持ち、いつでもそれを行使すると脅して来た国である。また、自 分が気に入らない国があれば先制攻撃して転覆させ ると公言し、そして実行して来た国でもある。朝鮮 にはごく小型の原子炉があるが、再処理工場はなく、 技術的にいうかぎりプルトニウムを分離して取り出 すことができないし、もちろん原爆を作る力もない。 それを無視し、朝鮮が小型の原子炉から得たプルト ニウムの全量を原爆にしたと空想した時の爆発力を、 現に米国が保有している核兵器の量と比較して示す と図12となる私自身は一切の核=原子力開発に反 対してきた。朝鮮にも核に手を染めて欲しくない。しかし、米国と戦争状態にある国が核を放棄す ると宣言できないことは当然だし、戦争の一方の当事国に対してだけ一切の核を放棄せよと迫るこ とがそもそもおかしい。 憲法で軍隊を禁じたはずの日本は、図13に示すように、すでに世界第2位の軍事大国となり、自 衛隊が重装備で海外に出かけて行く国となった。また「核」は軍事利用、「原子力」は平和利用とい うように言葉を使い分けてきて、日本が行っているものは「平和」利用である「原子力」開発であり、文明国として必須のものだと主張してきた。ところが同じことを朝鮮がしようとすれば、それは「軍 事」利用である「核」開発としてしまう。朝鮮など他国に核(原子力)の放棄を迫るのであれば、日本 もまた、「検証可能で後戻りできない形で、すべての核を放棄する」ことが必要である。 多くの日本人は、日本には「非核三原則」があるので、 日本が核兵器を保有することはありえないと信じ込まさ れている。しかし、現在の日本政府の公式見解は「自衛の ための必要最小限度を越えない戦力を保持することは憲 法によっても禁止されておらない。したがって、右の限度 にとどまるものである限り、核兵器であろうと通常兵器で あるとを問わずこれを保持することは禁ずるところでは ない」というものである。特に、「個人としての見解だが、 日本の外交力の裏付けとして、核武装の選択の可能性を捨 ててしまわない方がいい。保有能力はもつが、当面、政策 として持たない、という形でいく。そのためにも、プルトニウムの蓄積と、ミサイルに転用できるロケット技術は開 発しておかなければならない」という外務省幹部の談話は、 日本が原子力から足を洗えない本当の理由を教えてくれる。

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