2012年12月17日月曜日

(地域を荒らすだけ荒らした「特定避難勧奨地点」制度~高線量は変わらぬ伊達市霊山町下小国地区) http://ameblo.jp/rain37/entry-11428785775.html 依然として放射線量の高い状態が続いている伊達市霊山町の下小国地区。昨年6月、突然舞い込んだ「特定避難勧奨地点」の指定は、地域を荒らしに荒らした挙げ句、14日にまたしても突然、1年半ぶりに解除された。住民説明会もなし。高線量は変わらないのに、指定を受けられる住宅と受けられない住宅が生まれる制度の不備。避難をしていた人には地区への帰還が促され、賠償金も打ち切られる。指定を受けられなかった人は被曝を強いられたまま、感情的なしこりも消えない。福島原発事故の招いた〝愚策〟を強行した国や市の責任は重い。 【解除されても破壊された地域は戻らない】 「勝手に指定して、解除はまた突然。われわれをモノ扱いしているのか」 土木建築業を営む男性(68)は、怒りとも苦笑ともつかない表情で話した。 ある日帰宅すると、自宅周辺の放射線量を測定した結果が残されていた。家主の立ち会いもなく、きちんと測定したのかとの疑問は、2日後、指定解除の報道で解消された。「解除ありきの測定だったのでしょう。シナリオは出来上がっていたんですよ」 下小国地区に「特定避難勧奨地点」という聞き慣れない言葉が舞い込んだのは昨年6月。地区の全世帯ではなく、年間積算放射線量が20mSVを上回ると判断された世帯ごとに指定され、「避難するかどうかは住民の判断によることとなりますが、特に妊産婦、乳児などに避難を勧めるもの」(だて市政だより、2011年6月23日号より)。 指定の判断基準は「雨樋の下や側溝など居住区域のごく一部の個所の放射線量が高いとの理由だけで指定するのではなく、除染や近づかないなどの対応では対処が容易ではない地点で、地区の生活やコミュニティの実態を考慮しながら、世帯ごとに指定する」とされ、さらに仁志田昇司伊達市長は当時「避難勧奨地点に指定された後において除染活動などにより放射線量が下がった場合には、国・県に対して速やかに解除の要請を行ってまいりますのでご安心ください」(同)と説明している。 市長は「すぐに解除要請するから大丈夫ですよ」と言うばかりで、避難への助成や賠償金の説明は無し。住民説明会も開かれなかった。そのため、下小国地区の人々は指定の意味が理解できず、拒否をする人もいたという。男性は指定を受けたが、「当初は気の毒がられるような言葉が多かった」。勧奨地点に指定されることで不利益を被ると考えた人は少なくなかったのだ。 だが、お金の話が浮上すると地区の雰囲気が一変する。 指定を受けた世帯は固定資産税が減免され、避難費用の助成に加えて1人あたり月10万円の賠償金が支払われた。祖父母、息子夫婦に子どもがいるような3世帯同居の場合には、結果として年間の賠償金が1000万円近くに達する家庭もあり、「原発長者」などとや揶揄されることも少なくなかった。男性も、マイカーの買い替えを予定していたが、周囲に気を遣って中止。知人に中古車を5万円で譲ってもらった経緯がある。わが子の被曝回避に役立てようとキャンピングカーを購入したところ、指定を受けられなかった人々から激しいバッシングを受けた人もいたという。 「解除されても、壊れたものは元に戻らないですよ」。並び立つ住宅の片方は指定され、片方は指定を受けられない「世帯ごとの指定」の理不尽さ。勧奨地点指定の先に待っていたものは、指定制度と賠償金に対する怒りや妬みから来る、地域の分断と対立。そして、被曝はいまも、日々続いているのだ。 国道115号沿いの農地では、市の測定でも 1.4μSVを超す(上) 小国小学校に接する用水路では、依然として 55μSVを上回る高線量が計測される(下) 【勧奨地点など初めから無ければ良かった】 勧奨地点への指定にかかわらず変わらぬ地域の高線量。解除が大きく報じられるなか、指定を受けられなかった人は怒りを抱えたまま、地区での生活を続けている。 小国小学校では、校庭の一角に設置されたモニタリングポストは約0.37μSV。しかし、総選挙のポスターが貼られた校門周辺は0.6-0.7μSV。敷地に接する用水路では、雑草の真上で55μSVを超す高濃度汚染が続いている。やはり、全市民を強制的にでも避難させるべきだったのだ。一部には、市の破壊を恐れた仁志田市長が全避難を回避したとの情報もある。JA再度からの圧力があったとの見方も。場所によっては飯舘村よりもひどい汚染のなか、子どもたちの命が優先して守られなかったのは確かだ。 両親と50頭の乳牛を育てている酪農家の男性(29)は「勧奨地点は何だったのか、こっちが聞きたいですよ。何も変わらない。勧奨地点など初めから無ければ良かった」と話した。 放射性物質の飛来は、酪農を直撃した。搾った乳は毎日、捨てた。自家製の牧草は汚染で使えず、北海道の牧草を買い付けている。月のコストは3割増しになった。エサを満足に与えられず、死んだ乳牛は5頭に上った。損害賠償は、昨年は請求額の9割が振り込まれたものの、今年は半分しか振り込まれなかった。「残りは年末に振り込んでもらえるのかな」。自嘲気味に笑う表情が哀しい。 この1年半で良かったことといえば「除染をしてもらって、家の周りが片付いたことくらいかな」と苦笑する男性。この日、実施された総選挙では、一票を投じることはなかった。「誰が政治家になっても一緒でしょ?」。年間20mSVに達しないと判断されただけで区別された怒りはそのまま、政治不信につながっている。 何も変わらない、まま迎える2度目の正月。午前6時から牛舎で働く生活サイクルも変わらない。春が来れば再び、アスパラガスの栽培も始まる。 試験的に稲作が行われた水田では、依然として 空間線量が1.1μSVに達する。小国小学校の校 門周辺では、0.7μSV超。子どもたちは通学する たびに被曝を強いられている 【不平等解消へ東電に損害賠償請求】 下小国と上小国を合わせた小国地区では、住民らでつくる「復興委員会」が中心となって東電への直接請求が続いている。これまで、指定を受けられなかった家庭を救済しようと伊達市に固定資産税の減免措置の拡大適用を働きかけてきた。だが、出された結論は減免措置の打ち切り。「不平等なら全員から徴取しよう」との趣旨だった。委員の一人は「市長は宇宙人だ」と呆れる。そこで、勧奨地点の指定を受けた人を除く住民約900人で、精神的苦痛を受けたとして東電に損害賠償を請求している。弁護士の力を借り、書類が出来上がった人から順次、東電に書類を送付しているという。 「被曝の条件は同じなのに、片やお金がもらえて片やもらえない不平等。お金の問題は結局、お金でしか解決できないんです。それで、少しでも分断の修復に寄与できればいいのだけれど」と同委員は話す。 勧奨地点の指定解除を受け、帰還キャンペーンがますます盛んになる。「こんな年の瀬に戻って来いと言ったってできないだろうに。まだ線量の高いし」とは住民の一人。住民の被曝回避と破壊された地域の修復。国や行政の残した爪痕はあまりにも深い。 (了)

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