2012年10月7日日曜日
<エートス・プロジェクト>を通して国際原子力ロビーは何を目指しているのか? その2)
http://echoechanges-echoechanges.blogspot.jp/2012/07/2.html
その2は、ベラルーシのストリン地区で行なわれた<エトス・プロジェクト>について言及する前に、重要な資料を翻訳提出しておこう。すでに2004年に出された<脱原発ネットワーク>の文章で、仏原子力ロビーによる住民の反対を潰すための様々な工作が組織的、体系的に行なわれていることを批判したテキストである。ここに2回に分けてお届けする。これを理解すれば、いかに原子力ロビーが反原発派の批判を封じ、住民に危険を受入れさせ、核廃棄物貯蔵施設を容認し、汚染地帯でも楽しく暮らしていけるのかを、理論武装(プロフィット/確率論、リスク/プロフィット論)し、新しいコミュニケーション戦術をフルに使い、直接民主主義、参加/対話型コミュニケーション、ガバナンスといった語彙を使って、犠牲者自身が、あたかも民主的にすべてが決定されて納得してしまう、そのような戦略を立てていることがよくわかるのである。このような戦略への研究準備が1990年代の後半から着々と進んでいたということだ。
コリン・コバヤシ
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推進派による情報の遮断
反原発市民団体と環境保全に対する脅威
<脱原発ネットワーク>
対話的合議、<参加型>と言われる民主主義、公開討論の国の委員会、エネルギー政策に関する国レベルの議論など…。しばらく前から、原子力当局と原子力多国籍企業は、市民団体や他のグループ、集団を招き、民主的と思われる様々な形式の討論に参加させている。要注意だ!:これは実験的、あるいは乱雑ないくつかの試みのことではない。明らかに、強力な手段を与えられた整合性のある調整されたプロセスなのだ。そして、その唯一の目的は、住民に,原子力とそのリスクを受入れさせることである。そのためのあらゆる方法はよいのだ。すなわち、チェルノブイリの真実の影響を提示するデータには、何もしないこと、新たな原発事故の影響について矮小化すること(もしそれがフランスで起こっても)を事前に準備すること、反対派を分断すること、危険に晒された住民の用心や怒りを骨抜きにするために、原子力管理に、市民団体と協力するように試みること…などである。
「御宅のそばに核廃棄物を持って来てもらいたくない」って? では、私たちと議論しに来て下さい。あなたは最終的に私たちと意見が一致するでしょう。ここに少し風刺を込めて、今日、原子力産業がどのように新しい投資を準備しているのかを見ていこう。
実際、数十年に渡って、権力は、民主的とされている協議や他のプロセスを気にかけることはなかった。つまり、国家機動隊は組織的に地域住民の拒否や怒りを鎮圧して来た。今日、状況は変わった。情報の拡散、そして市民の動員の組織化は、大きな財源がなくとも、とりわけ、インターネットのおかげで、迅速に行なうことができる。そして、フランスのような豊かな国においては、世論における企業イメージに気を使っており、機動隊の弾圧や催涙ガスの大きな援護の元で原子力施設を建設することは回避したいと思っているのだ。イメージとして悪いものは、収益を上げる意味でもよくないのだ。このことは、権力的、弾圧的方法を今後二度と使わないという意味ではなく(GMO反対で作物引き抜きをやった人たちが経験したことを見てみればいい)、そのような事態にたどり着く前に、多国籍企業と権力は、彼らの計画を、とりわけ対話的協議を介して、<そっと>受入れさせるようにしたいのである。
フランスでは、<花崗岩ミッション>の壮大な計画が、2000年春に、今まで原子力ロビーが住民を案じることなく、したいことがおおよそなんでもできた<祝福の時代>の終焉を確かに示していたのだ。三人の官僚からなるこの任務は、核廃棄物の貯蔵のために、地下研究所を花崗岩の岩盤に作るという暫定的な計画を検討するためだった。西部と中央山塊地方の15のサイトが選択された。最初の任務は、2000年3月7日に、多くの反核デモが関連地方、とりわけマイエンヌで行なわれ、ここでは数千のデモ参加者たちによって、サイトを、象徴的にマイエンヌ地方の国境まで後ずさりさせた。
2000年7月末に提出された報告書によると、<花崗岩ミッション>は失敗したことを認めた(報告書アネックス1の資料B)。15の候補地は内密にされていたが、原子力反対派は、一見したところ、2000年1月27日に内部資料を入手すると共に公表して、素晴らしい勝利を勝ち取った(<脱原発ネットのコミュニケ、アネックス1の資料a)。しかしながら、<花崗岩ミッション>の最終コミュニケを注意深く読むと、原子力ロビーは反撃を用意していることが分かる。核廃棄物を管理するための最上の方法ほど複雑な課題について、行われた研究、問題点、リスクを充分分ち合うためには時間が必要である。最も全般的な省察は、協議の条件とやり方、そして、意見の情報をどのようにするかについて、行なわれるだろうと記されている。
原子力推進派のなかでは、この<花崗岩ミッション>の失敗について分析するに適した人物が一人いる。<ムタディス・コンサルタント>のデイレクター、ジル・ヘリアール=デュブルイユである。数年前から、原子力を受入れさせる方法について研究しているたっぷり資金提供されたコンサルタント事務所だ。ムタディスは<花崗岩ミッション>に参加したが、協力することを受入れたいくつかのNPOと作業グループを推進させたに過ぎない。ムタディスのノウハウは、この企業によって洗練された最初の主張の中に読み取れる。協議の構造におけるNPOの参加費用(経費、作業した時間、代表して活動した時間)。ジル・ヘリアール=デュブルイユは全く魔法使いのようだ。全く不都合な混乱状況のなかで、NPOが依頼した経済的助成を受けることと、全く受け入れがたい計画に保証を与えることに、ともかくたどり着けたのだ。ヘリアール=デュブルイユ氏は、このミッションの全体的な失敗は、彼の仮説を強固にしたと明らかに考えている。1997年から1999年まで、彼は欧州プログラム<トラストネット>(www.trustnetgovernance.com)を調整した。これは、産業的、自然的、健康的リスクの社会的管理に関する集団的な省察のプロセスで、80名の参加者(公務員、研究者、企業家、市民団体のメンバー)を集め、リスクの伴う事業のガヴァナンスのコンセプトを念入りに作り上げ、相互信頼の構築に依拠できる決定のモデルを定義することにあった。
2000年1月-2月の雑誌『環境と技術』(193号)は、「討論:受入れ可能にするもの —危険のある事業を正当化しながらリスクを正当化すること」と題してトラストネット・プログラム最初の報告が書かれている。このタイトルが心配させるものは、資料の中で追認されている。リスクの伴う事業のあり方そのものを問うことは、この資料のどこを見てもないのである。ある事業があまりにも危険があり過ぎ、放棄すべきだというような仮説は、一切取り上げられない。唯一の目標は、適応された戦略によって、住民、代議員たちに受け入れさせることである。「リスクを伴う事業の周辺での決定をすることは、集団的構築を作ることが、課題となっている事業を長期にわたってより受入れさせる可能性を与える」あるいはまた「事業主は、保守的な姿勢にならないために、リスクの伴う事業を正当化することを受入れねばならない。こうして、リスクを定義し、リスクの伴う事業を受入れさせるチャンスを向上させるのである」。
トラストネットは、あきらかに、最終目的に辿り付けるようにアドヴァイスを行なって、そのことがうまくいかないときでも、事業主に加担している。「決定に至るための集団的構築を作ることはまた、ある場合においては、微妙な状況の閉塞状況を解除させることを可能にする」。トラストネットは、状況が可能な時には、事業主にその事業を急がせながら、そして、技術官僚的、権威的な決定のモデルに近づきながら、時間稼ぎ(つまり、お金)を提案するのである。そのことは、関係している住民の権利や自由についてはわずかしか評価していないということなのだ。
今日では、決定は二つのモデルを参照している。
= 一つは、ここ50年ほどの科学技術的な大選択に関連して使われている技術官僚的、権威的(トラストネットは、権威のパラダイムと定義している)モデル
= もう一つは、関係する全てのアクターたちを協力させて本当の協議のアプローチに向かう対話的協議(トラストネットは、相互信頼のパラダイムと定義)のモデル
トラストネットは、力づくでいくことが難しい時には、相互信頼を構築するように忠告する。これは、したがって、事業主、決定者のなんらの誠実さにも基づいていない。これは要するに、狡賢さによって相手をたぶらかすことにある。決定のそれぞれの過程は、これらの二つのモデルの異なった注入の仕方である。「これらのそれぞれのケースにおいて、そのテーマと状況によって,最も適合した注入方法を定義することは、決定者に帰される」。これ以上付け加えることがあるだろうか?
もうひとつのプログラム、COWAM (Community Waste Management : http://cowam.com) は、とりわけ核廃棄物についての受入れ可能性、をテーマに、2000年9月から2003年9月まで行なわれた。欧州委員会(リサーチ局)から支援されてヨーロッパ規模で行なわれた協議で、その目的は核廃棄物の貯蔵施設の設置と施設の開発事業についての決定過程の質を高めるための実践的な勧告を発展させることである。コワム・プロジェクトの事務局もやはり、さけて通るわけにはいかないムタディス・コンサルタントが請け負った。この企業の年商は衝撃的だ。我々のお金(つまり税金)=助成などによって、あるいは原子力ロビーからの資金で膨らんでいる。
ここで、シンディニック欧州研究所(IEC ; www.cindynics.org)も引用しておこう。この研究所は、リスクを伴う大企業(仏電力公社、コジェマ社(アレヴァの前身)、トータル、仏国鉄にスポンサーになってもらっている。「ギリシャ語<キンデュノス>は危険を示す語だが、この言葉が、今、以下の産業の中に出現しつつある科学に命名されるべきとの提言を行なった。以下の産業とは、原子力による電力生産、航空輸送、宇宙開発、大化学産業、大鉄鋼業である」。要の人物、IECの科学委員会の副委員長ジル・エリアール=デュブルイユは、IECによって2003年3月17-18-19日にパリで組織された『リスクのある事業と民主主義 —新しい形のガバナンスに向かって』と題した大討論会の組織委員会の会長だった。
原子力ロビーは、核廃棄物の将来の施設を住民に受入れさせるための研究を非常に緊密にしているだけでは気が済まない。とりわけ原子力によるリスクをあらゆる視点から見て、惨事のリスクの殻を取り去ったのだ。そしてもちろん、研究するにはチェルノブイリほどいいケースはない。問題は、チェルブイリの放射能雲が前ヨーロッパを通過したとしても,一番、被害を被ったのは、ウクライナとベラルーシだ。ところで、原子力ロビーが強大なのは西ヨーロッパで、とりわけ、仏電力公社[1]、コジェマ[2](現在では,アレヴァの構成体)、原子力庁[3]、あるいはIRSN[4]によって、力のあるフランスである。この4っの大組織が一緒になって、CEPN(原子力分野における防護評価研究センター、www.cepn.asso.fr)を作り、この組織を<トロイアの馬>のようにして、彼らの利害が関与するところには、すぐ、送りつけるのである。ジャック・ロシャールという人物によって推進され、年間2百万ユーロの運営資金を得ており、いくつかのプロジェクト(エトス、コア)を行なっており,その結論は、理解力を越えている。
バーゼル大学医学部名誉教授ミッシェル・フェルネックスは、クリラッドの機関紙<トレ・デュニオン>22号に,素晴らしい記事を寄せている。「
<エトス>の責任者たちが、ベラルーシのチェルノブイリ問題省に、ワシーリ・B・ネステレンコ教授に率いられたベルラド放射線防護独立研究所に取って代わるよう依頼したのである。彼らはこの研究所の測定データを、数年前から使っていたのだ。
2001年1月25日にヴァレリー・シュヴチュークが署名したチェルノブイリ問題省のベルラド研究所所長宛の手紙は、ストリン地区の一連の村々の管理は、<エトス2>のために、彼らの依頼によってベルラド研究所から取り上げる故の通告であった。
」
ミッシェル・フェルネックスは、「もしチェルノブイリの影響の実相が知れていたら、世界の原子力開発プログラムに終止符を打ったことだろう」と付け加えている(『ポリティス』2003年12月13日)
第一回仮訳 続く
原文の欲しい方は以下のアドレスでダウンロード:
groupes.sortirdunucleaire.org/IMG/pdf/Bulletin-21.pdf
<訳注>
[1] EDF Eléctricité de France
フランスの主要電力会社。1946年4月設立。当時1450の企業をまとめて国有化した。2003年6月に欧州通達に従って、改正された産業と商業の公益組織として再編され、2004年11月に公金に基づく株式会社として民営化された。しかし政府は85%の株を所有している。現在、58基の原子炉を開発し、75%の電力を原発で生産している。年商10億ユーロ。現在、ヨーロッパ中に進出し、それ以外に米国、ブラジル、中国、ベトナム、ラオスにも投資している。
http://france.edf.com/france-45634.html
[2] Cogema/Areva
1976年に設立された核資源公社。ウラン採掘、核燃料製造、核燃料の再処理を行なっていたが、2001年、原子炉製造を行なって来たフラマトムと共同持ち株会社を設立し,傘下に原子力部門、核燃料部門、送電部門を持つ複合企業体アレヴァとなった。ただし、株は99%、仏政府が所有している。
http://www.areva.com/
[3] CEA Commissariat d’énergie atomique
フランス原子力庁:元来,核兵器開発、製造と管理、また原子力の研究開発、原子力の産業への使用(電力開発)をめざした開発応用研究を行う部局として1945年に作られた。現在は最後に<et aux énergies alternatives が付け加えられ,代替えエネルギーも研究している(2010年より)
15718名の職員が勤務しており、年間予算は、39億ユーロ。
http://www.cea.fr/
[4] IRSN(放射能防護と核安全研究所)
2002年に、以前からあった電離放射線防護局(OPRI)と防護・原子力安全研究所(IPSN)が改編、統合されてで来た組織。国防省、経済産業省、厚生省、環境省の各大臣の共同監督の元に運営されている。福島原発事故についても,多くの調査、リポートを発表している。
http://www.irsn.fr/FR/Pages/Home.aspx
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