2012年8月23日木曜日

政府に対する、放射能汚染食品の摂取による内部被曝の回避に向けた七つの提言. http://www.acsir.org/info.php?15 市民と科学者の内部被曝問題研究会) 内閣総理大臣 野田佳彦殿  私たち、「市民と科学者の内部被曝問題研究会」は、東京電力福島原子力発電所の事故に伴う放射線による被曝に対し、市民と科学者が一体となり、特に低線量による内部被曝を含む被曝問題に積極的に取り組み、子どもたちをはじめとする全国の市民を守って、被曝の影響を最小限にする研究を行って市民に提供し、また政府のパブリックコメントに応ずるなど多面的な活動を行っております。 つきましては添付させて戴きました「放射能汚染食品の摂取による内部被曝の回避に向けた七つの提言」をお読み下され、これらの提言をお取り上げいただきますようお願い申し上げます。 放射能汚染食品の摂取による内部被曝の回避に向けた七つの提言 2012年8月6日 市民と科学者の内部被曝問題研究会 理事長 澤田 昭二 <目 次> はじめに  ◆政府に対する七つの提言  (1)限りなくゼロベクレルを目指す  (2)第一次産業従事者(生産者)と消費者に対する補償  (3)第一次産業従事者の権利保障と放射能汚染のない食糧の大増産  (4)四囲の海洋における放射能汚染調査の徹底と安全な海産物の安定供給  (5)河川・湖沼水と沈殿物の放射能汚染調査の徹底と安全な飲料水の安定供給  (6)高性能の放射能汚染迅速調査システムの開発・実用化  (7)給食食材の安全確保ならびに全出荷食品の放射能汚染調査とベクレル表示  ◆提言の理由と背景  1.呼吸による内部被曝と飲食による内部被曝  (1)呼吸による内部被曝  (2)飲食による内部被曝  2.放射能汚染食品の「暫定規制値」と「新規格基準」(新基準値) (1)2011年3月17日の「暫定規制値」  (2)2012年4月1日からの「新規格基準」(新基準値) (3)原発事故後は低レベル放射性廃棄物以上かそれ並の汚染食品が流通し得る  3.放射能汚染食品の「出荷制限」の法的根拠と公的な食品調査の実態  (1)放射能汚染食品の「出荷制限」の法的根拠  (2)食品の放射能汚染の公的調査の杜撰な実態  (3)新基準値に基づく食品の放射能汚染の公的調査結果の姑息な公表方法  4.放射能汚染食品の規制値の歴史 (1)チェルノブイリ原発事故直後  (2)ICRP 1990年勧告以後  (3)海外の事例  (4)ICRP(国際放射線防護委員会)の身勝手なご都合主義  はじめに  今回の東電福島第一原発(以後、福島原発)事故による放射線被曝が一般の人びとに及ぼす影響は、外部被曝と内部被曝に分けられます。しかし、全国的にみれば、主として呼吸または飲食による内部被曝が問題です。内部被曝の影響を重視する程度を別にすれば、科学者・技術者の立ち位置の如何にかかわらず、内部被曝が問題であることは共通認識となっていると申し上げてよいでしょう。このような状況のなかで、私たち市民と科学者の内部被曝問題研究会は、この内部被曝が生態系や人体に及ぼす影響を、ことのほか重視します。  本年6月25日、東電発表の「原子炉建屋からの追加的放出量の評価結果」によれば、現在でも1~3号機から空中へのセシウム-134とセシウム-137の合計放出量は少なくとも10,000,000Bq/h (ベクレル/時間)以上です。その他の放射性核種の放出量をはじめ、海水中や地中への放出量は一切明らかにされていませんが、看過できない量であることは間違いありません。したがって、児童・生徒たちや妊産婦が緊急疎開することが望ましい福島県内の高汚染地帯や、関東のホットスポット地域などを除けば、放射能汚染食品を摂取することによる内部被曝の回避が、現在の最重要課題であると考えられます。  放射能汚染食品の出荷制限や摂取制限に関しては、昨年3月17日に急遽発表された国の「暫定規制値」や今年度(2012年4月1日)から適用された「新規格基準」(新基準値)があります。ところが、これらの値の拠り所はICRP(国際放射線防護委員会)の勧告であり、このICRP勧告には人びとに放射線被曝を一方的に強制するなど大きな問題があります。しかも、チェルノブイリ原発事故後における我が国の放射能汚染食品の輸入規制値に始まる規制値の歴史をひもとけば、そのときどきの規制値はさも科学的に算出されたような装いをしてはいますが、まったく一貫性が無く政治・経済的ご都合主義で定められたものであることが、すぐにわかります。放射能汚染食品の規制値は、人びとの命と暮らしを守るためではまったくないということです。それに加えて、公的な放射能汚染調査の実態を見れば、ほとんどの農林水産物が無検査のまま市場に出回っていることがわかります。 したがって、現状のままでは放射能汚染食品の摂取による内部被曝を回避することは、市民団体の緻密な精力的活動を除けば、実際問題として不可能です。  ここでの重要課題は、政府の「事故収束宣言」による帰還運動とは裏腹で、人びとは放射能にひどく汚染された地域には住もことができず、家畜・家禽等の飼育を含む農林水産業はできないということを大前提として、放射線感受性の高い子どもたちをはじめとする人びとの命と暮らしを守ることを最優先する政治です。そして食品の安全・安心の観点からは、放射性セシウム(本年3月までは放射性ヨウ素も対象)による放射線被曝リスクだけを、もっぱら測定しやすいガンマ(γ)線に頼って評価する政府の基本姿勢を改めることです。すなわち、アルファ(α)線を放出するプルトニウム238、同239や、ベータ(β)線を放出してイットリウム90になり、さらにベータ線を放出して安定したジルコニウムになるストロンチウム90などにも着目し、放射性ヨウ素や放射性セシウムが一連の崩壊過程で放出するベータ線にも着目することです。 そこで当市民と科学者による内部被曝研究会は、放射能汚染食品の摂取による内部被曝の回避に向けて、第一次産業生産者の生活と生産活動の補償ならびに自然・農林生態系の保全を大前提とする緊急対策を構築するために、日本政府に対して七つの提言を申し入れます。 ◆政府に対する七つの提言 長期にわたる内部被曝の人体に及ぼす影響については、ECRR(欧州放射線リスク委員会)の2003年の勧告と2010年の勧告および、ユーリ・I・バンダジェフスキー(2009)、アレクセイ・V・ヤブロコフら(2009)、IPPNW(核戦争防止国際医師会議ドイツ支部)(2011)などが多数の事例を紹介しています。これらの事例を紐解けば、ICRPや日本政府、政府に近い学者等の主張とは大きく異なり、かなりの低線量の内部被曝でも多様な疾病の原因になることが明らかです。したがって、とくに妊婦の体内で成長中の胎児や生後間もない乳幼児、児童・生徒、生殖可能な青年男女などは、呼吸ならびに飲食による放射性物質の体内取り込みを可能な限り回避することが強く望まれます。  ここにおいて、人びとが放射能汚染されていない食品を摂取できるように、中央政府も地方政府も、家畜・家禽や山野草を含むあらゆる農林水産物について、限りなく放射能汚染のない食品の生産・流通を進める政策が不可欠です。  なお、1960年代から自民党政権が進めた、従属的な日米安保体制と加工輸出貿易立国を謳う自由化・開放経済体制によって、もっとも衰退したのが第一次産業であり、なかでも自給的農業を伴う林業の衰退は大きく、中山間地域や離島を中心に過疎化・高齢化が急速に進み、集落としての社会・共同体機能が失われ、やがて消滅に向かう「限界集落」や「超限界集落」が増え続けています。また、農業と水産業の軽視政策は、農村と漁村の衰退と休耕地・耕作放棄地の増大ならびに食糧自給率の顕著な低下をもたらしました。 したがって、東日本大震災と原発事故という自然災害と人災によって壊滅的な被害を蒙った第一次産業の担い手たちを救済しつつ、自然・農林生態系の保全と食糧生産力の向上を図るためには、地域の枠を超えた集団移住・集団疎開を住民の意思に沿って総合的に推進することを保障する国家的政策が不可欠です。この事業が成功すれば、生活の場を奪われた人びとの新たな生活が保障され、かつ環境保全と安全な食糧生産も保障されます。 そこで、私たち市民と科学者の内部被曝問題研究会は、政府に対して以下の七つの提言を緊急に申し入れます。 (1)限りなくゼロベクレルを目指す:ECRR 2010年勧告に倣い、一般人の年間被曝限度を0.1mSv(ミリシーベルト)以下、核施設作業労働者の年間被曝限度を2 mSvとすることを提案します。さらに、ドイツ放射線防護協会(Gesellschaft für Strahlenschutz e.V.)の推奨レベルよりも厳しい放射性セシウムの1kg当たりの規制値として、当面、乳児~青少年は1Bq以下、成人は4Bq以下を提言します。 (2)第一次産業従事者(生産者)と消費者に対する補償:上記(1)の提案内容を保障するためには、規制値を超える汚染産品を市場に出さないことが不可欠であり、その大前提として、東電と政府には第一次産業従事者(生産者)と消費者の生活と健康を守る義務があります。そこで、早急にそのための法整備を行うことを提言します。 (3)第一次産業従事者の権利保障と放射能汚染のない食糧の大増産:故郷への帰還の展望がみられない高汚染地域の第一次産業生産者には、非汚染地域または汚染のきわめて軽微な過疎地域の限界集落・超限界集落などへの集団移住または集団疎開によって生産活動を続ける権利を保障し、遊休農地、限界漁港背後集落等の積極的な利活用を図り、自然・農林生態系の保全と安全・安心の食糧大増産の担い手となってもらうことを提言します。 (4)四囲の海洋における放射能汚染調査の徹底と安全な海産物の安定供給:福島第一原発から放出されて太平洋に集積する放射性物質は、汚染水の意図的・非意図的な放流と空からの放射性降下物の他に、山岳森林地帯から河川を下り河口からの放射性流入物があり、この問題は早晩、日本海にも及びます。したがって、日本海をふくむ四囲の海域のきめ細かな放射能汚染調査の継続・徹底と公表を進めるとともに、すべての漁港・市場に放射線計測器を設置し汚染海産物が流通しない体制の構築を提言します。 (5)河川・湖沼水と沈殿物の放射能汚染調査の徹底と安全な飲料水の安定供給:特に東北・関東甲信越地方の背骨に位置する山岳森林地帯は、福島原発事故によって大量の放射性降下物が蓄積し、種々の放射性物質の貯蔵庫として機能しながら河川を通じて流域から海に向けて放射性物質を拡散し続けています。したがって、安全な飲料水を安定供給するために、流域河川・湖沼水と沈殿物のきめ細かな放射能汚染調査の継続・徹底と公表ならびに除染対策を進めるとともに、淡水産汚染食品が流通しない体制の構築を提言します。 (6)高性能の放射能汚染迅速調査システムの開発・実用化:本来は、公的機関による無料調査が原則ですから、そのために不可欠なベルトコンベアー式検知器(例えば最新のGBO検知器では30 kgの米袋を10秒間で1 kg当たり25Bqまで計測可能)など、調査システムの精度と速度をいっそう大幅に向上させるための開発・実用化研究の緊急実施ならびに、全出荷食品のきめ細かな調査体制の構築を提言します。 (7)給食食材の安全確保ならびに全出荷食品の放射能汚染調査とベクレル表示:子どもなど被曝弱者には安全な食品の供給が特に重要なので、全保育園、幼稚園、学校等の給食食材の安全確保のため、産地選定ときめ細かな高精度の放射能測定の義務化を提言するとともに、市販食品に放射能のベクレル表示の制度化を提言します。同時に、市民団体または個人等で実施されている放射能汚染調査をいっそう広めるとともに、これに要する経費を東電と政府が支弁することの制度化を提言します。 ◆提言の理由と背景 1.呼吸による内部被曝と飲食による内部被曝 (1)呼吸による内部被曝 空中に浮遊する放射性物質を吸気と共に吸い込むことによって生じ、放射能雲(プルーム)からの降下物を直接的に吸い込む場合と、地面、家屋などの諸構造物あるいは植物の葉や落葉などに吸着した放射性物質が乾燥して空中に巻き上げられ、あるいは水面の波のしぶきによって空中に撒き散らされ、さらには「除染」作業によって、再度浮遊した放射性物質を二次的に吸い込む場合とがあります。 2011年3月11日の東日本大震災以後、福島原発の数度にわたる爆発で空中に放出された放射性物質がプルーム(放射能雲)として風下に流され、各地で放射性降下物として落下し地表の空間線量の著しい増加をもたらすことが予測されていたにもかかわらず、人びとの健康と安全を蔑ろにした政府と東電は、この過酷事故の正しい情報を直ちには公表しませんでした。とくに政府が、文科省の緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)による予測情報を米軍には3月14日に知らせながら、国内の人びとには3月23日まで知らせなかったため、福島県内の飯館村などはもとより茨城県、栃木県、群馬県などの少なからぬ地域の人びとが、大量の放射性ヨウ素(I)や放射性セシウム(Cs)などを吸い込んでしまいました。これは、国家的な未必の故意により、人びと、とくに放射線感受性の高い子どもたちや胎児を宿す妊婦さんたちなどが呼吸によって放射性物質を体内に取り込むことによる内部被曝の国家的強要であり、国家的犯罪以外の何物でもありません。 (2)飲食による内部被曝 飲食による内部被曝は、原発事故によって放出された放射性物質が、森林から河口までの流域一帯に広く降下することによって飲料水が放射能に汚染された場合にまず生じ得ます。また、放射性物質が流域一帯の田畑や牧草地などに降り注ぎ、栽培・飼育動植物が直接・間接に放射性物質を吸収または沈着することによって農畜産物が放射能に汚染された場合、さらには放射能に汚染された内水面の淡水魚などや海洋の水産物が生物濃縮によって高濃度の放射能に汚染された場合に生じえます。  福島原発事故に起因する放射能汚染食品の飲食による内部被曝を回避するためには、万全の放射能汚染検査体制によって、汚染飲食物の出荷制限(視点を変えれば、東電買取り)を確実にすすめ、人びとが飲食による内部被曝を回避できるようにすることが不可欠です。 2.放射能汚染食品の「暫定規制値」と「新規格基準」(新基準値)  福島原発の過酷事故以降、4月上旬までの厚労省による暫定規制値に関連する一連の決定を振り返ると、如何にもいわゆる泥縄式に対応してきたことが伺えます。 まず、3月17日の「放射能汚染された食品の取り扱いについて」(食安発0317第3号。厚生労働省医薬食品局食品安全部長からの、都道府県知事、保健所設置市長、特別区長宛の、いわゆる「暫定規制値」通達)が出されました。これには、①放射性ヨウ素(混合核種の代表核種I-131)、②放射性セシウム(Cs-134、Cs-137)、③ウラン(U)、④プルトニウム(Pu)と超ウラン元素のアルファ核種の4種類について指標が示されています。 その背景として、「飲食物摂取制限に関する指標について」(1988年3月6日、原子力安全委員会原子力発電所等周辺防災対策専門部会 環境ワーキンググループ)と「原子力施設等の防災について」(2003年7月、原子力安全委員会)の存在があります。 以下、3月21日「食品の出荷制限について」(原子力災害対策本部長=菅直人首相からの各知事宛の、いわゆる「出荷制限」通知。福島、茨城、栃木、群馬のホウレンソウとカキナなど)、4月4日「食品規制の二方針」(「食品についての規制について」(枝野幸男官房長官記者発表。原子力災害対策本部長が、①汚染区域の設定、解除は、「市町村単位など、県を分割した区域毎」に行う、②出荷制限の解除は、「1週間毎に検査」し、「3回連続で暫定規制値を下回った品目、区域」について行うことを決定、4月5日「魚介類中の放射性ヨウ素に関する暫定規制値の取扱いについて」(食安発0405第1号。魚介類中の放射性ヨウ素は、当分の間、「飲料水及び牛乳・乳製品以外の食品として暫定規制値が設定されている野菜類中の放射性ヨウ素と同一の暫定規制値である2000 Bq/kgを準用」、4月88日「水稲の作付制限」(「イネの作付けに関する考え方」(原子力災害対策本部。水田土壌から玄米への放射性セシウム(Cs)の 移行率10 %の指標。「玄米中の放射性セシウム濃度が食品衛生法上の暫定規制値(500 Bq以上は出荷制限) 以下となる土壌中の放射性セシウム濃度の上限値5000 Bq」を超える水田で作付け制限)などです。 (1)2011年3月17日の「暫定規制値」  「飲食物摂取制限に関する指標について」(1998年3月6日、原子力安全委員会原子力発電所等周辺防災対策専門部会 環境ワーキンググループ)では、①放射性ヨウ素(混合核種の代表核種I-131)、②放射性セシウム(Cs-134、Cs-137)、③プルトニウム(Pu)及び超ウラン元素のアルファ核種の3種類について指標が示されています。 ① 放射性ヨウ素:甲状腺等価線量として年間50 mSvを上限目標とし、飲料水、牛乳・乳製品、野菜類(根菜、芋類を除く)の3食品に50 mSvの2/3をあて、残り1/3は保留することにして、3食品の各々に50mSv×2/3の1/3ずつを割り当て、飲料水と牛乳・乳製品の摂取制限指標は1kg当たり300 Bq、野菜類のそれは2000 Bqと定めています。 なお、これ以前の防災指針では、ヨウ素131は単一核種として扱われ、それぞれ1 kg当たり、飲料水100 Bq、牛乳・乳製品200 Bq、葉菜6000 Bqでした。 ② 放射性セシウム:実効線量5 mSv/年を上限目標とし、かつストロンチウム90(Sr-90)/セシウム137(Cs-137)比が0.1の場合のストロンチウム90の寄与も含めて5 mSvとし、飲料水、牛乳・乳製品、野菜類、穀類、肉・卵・魚その他の5食品に5 mSvの1/5ずつを割り当て、1 kg当たりの摂取制限指標は、飲料水、牛乳・乳製品では200 Bq、野菜類、穀類、肉・卵・魚その他では500 Bqと定めています。 なお、ストロンチ90/セシウム137比0.1を超える場合、及びその他の核種の複合汚染の場合は、これらの寄与を考慮して指標を低減して運用するとしています。 ③ プルトニウム及び超ウラン元素のアルファ核種:年当たり実効線量5 mSvを上限目標とし、アメリシウム(Am-241)、プルトニウム(Pu-238、Pu-239、Pu-240、Pu-242 )等のα核種の放射能濃度の合計に適用して、1kg当たりの摂取制限指標は、飲料水、牛乳・乳製品では1Bq、野菜類、穀類、肉・卵・魚その他では10 Bqと定めています。   なお、調理された食事に供される乳児用市販食品には、1Bqを適用しています。  2003年7月、原子力安全委員会は、1999年に茨城県東海村で起きたJCO臨界事故を受けて、1998年3月の上記「飲食物の摂取制限に関する指標について」の原形(放射性ヨウ素・放射性セシウム、プルトニウム及び超ウラン元素のアルファ核種の指標)に、ウラン(U)を加えた指標を決定しました。すなわち、ウランについては、飲料水、牛乳・乳製品の摂取制限指標は1kg当たり20 Bq、野菜類(根菜、芋類を除く)、穀類、肉・卵・魚その他のそれは100 Bqと定めました。なお、放射性ヨウ素のみ、乳児用調製粉乳と乳の指標を300 Bqはなく100 Bqと低くしています(ただし、いずれも調理して供されるものに適用)。  したがって、昨年3月17日の通達による「暫定規制値」は、2003年7月の原子力安全委員会決定「原子力施設等の防災について」の指標値をそのまま援用したもので、①放射性ヨウ素(混合核種の代表核種I-131)、②放射性セシウム(Cs-134、Cs-137)、③ウラン(U)、④プルトニウム及び超ウラン元素のアルファ核種の4種類について指標が示されています。なお、①放射性ヨウ素は、崩壊過程でベータ線を放出(ベータ崩壊)して放射性キセノンとなり、続いてこれがガンマ線を放出(ガンマ崩壊)して安定なキセノンになり、②放射性セシウムは、ベータ崩壊して放射性バリウムになり、続いてこれがガンマ崩壊して安定なバリウムになるので、一連の崩壊過程でベータ線とガンマ線を放出します。③ウランは、長年月にわたる一連の崩壊系列の過程で、10回以上もアルファ崩壊またはベータ崩壊を繰り返しながら新たな放射性核種となり、最終的に安定な鉛になりますので、体内に取り込めば被曝量は甚大です。④も③に似て、一連の崩壊系列の過程でアルファ線崩壊やベータ崩壊を繰り返しますので内部被曝量は甚大になります。 (2)2012年4月1日からの「新規格基準」(新基準値)  前提として、物理学的半減期の長い放射性セシウム(Cs-134、Cs-137)、ストロンチウム(Sr-90)、ルテニウム(Ru-106)、プルトニウム(Pu-238、Pu-239、Pu-240、Pu-241)の合計が年間1 mSv以下とすることとしています。しかし実際には、セシウム以外については検査に時間がかかるため、セシウムのみを対象とし、各核種の検出比(Cs-137を1.0としたときの比)を固定的にPu-238:Sr-90:Ru-106:Cs-134:Cs-137 =0.000002:0.003:0.02:0.29:1.0であるとして、これらを含めて基準値を定めたことになっています。しかし、この割合がいつでもどこでも普遍的で正しいかという問題があります。また、米、牛肉や大豆など一部の加工食品については、今年(2012年)12月31日までに製造・加工・輸入された食品は賞味期限までは従来の暫定規制値がそのまま適用されるなどの問題もあります。 それはそれとして、放射性セシウムについての新基準値は、食品を4分類して1 kg当たり飲料水10 Bq、牛乳50 Bq、一般食品100 Bq、乳児用食品50 Bqと定められました。 (3)原発事故後は低レベル放射性廃棄物並みかそれ以上の汚染食品が流通し得る  ここで示した1998年3月の「飲食物の摂取制限に関する指標について」や2003年の「原子力施設等の防災について」、さらに今年度からの「新基準値」をみると、さまざまな要因を考慮した計算に基づいて得られた値を指標値としており一見科学的な根拠があるように見えます。しかし、そもそも原子炉等規制法によれば、原発から通常排出される廃棄物のうちセシウム137が1kg当たり100 Bq以下のものは、低レベル放射性廃棄物として同法に基づき処理・保管されることになっています。 ですから、昨年3月17日から今年3月31日までは緊急時だからという理由で、低レベル放射性廃棄物の放射能汚染度を大幅に超える500 Bqを超えない野菜・穀類や肉・魚貝類等は食べても安全とし、4月1日からも一般食品は低レベル放射性廃棄物と同じ100 Bq以下なら安全としているわけです。さらに、一連の食品の規制値に関する歴史をひもとくと、後述のとおり、その欺瞞性が鮮明に見えてきます。 3.放射能汚染食品の「出荷制限」の法的根拠と公的な食品調査の実態 (1)放射能汚染食品の「出荷制限」の法的根拠  「食品衛生法」には放射能汚染食品に対応する条項がまったくありません。原発の「安全神話」により、食品の放射能汚染については想定すらしなかったのでしょう。そこで、厚労省は、もしも規制値を超える放射能汚染食品が見つかった場合には、第6条の2「有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いがあるもの」に相当するものとして、出荷制限することにしました。  食品添加物のリスク評価においては、「安全な混入量が実験動物に悪影響を示さない投与量÷100」 として安全基準が求められ、曲がりなりにも表面上はゼロリスクが基本です。しかし、放射性物質については、後述のとおりICRP(国際放射線防護委員会)の諸勧告が基礎となっているため、ある程度の人の死を大前提としており問題です。 (2)食品の放射能汚染の公的調査の杜撰な実態  国の指示に従って地方自治体が行っている公的検査の実態についてみると、暫定規制値については、①放射性ヨウ素(混合核種の代表核種I-131)、②放射性セシウム(Cs-134、Cs-137)、③ウラン(U)、④プルトニウム(Pu)及び超ウラン元素のアルファ核種の4種類について指標が示されていますが、実際には①放射性ヨウ素(I-131、I-134)と②放射性セシウム(Cs-134、Cs-137)由来のガンマ線しか調べていません。ですから、内部被曝でもっとも問題となるアルファ線やベータ線は埒外に置かれています。しかも、調査件数があまりにも少なすぎます。なお、学校給食の食材調査では、全食材の一括調査などの方法に、保護者から疑問の声があがっています。 全国の調査実績:昨年3月17日から本年3月16日までの1年間にわたる食品調査実績は、山野草や淡水魚、海産物を含めた全国の調査総数は126821件ですから、1日平均347.5件、都道府県単位でみれば1日平均10件にも及びません。 このうち、全都道府県のうち放射能汚染の深刻な総理指示対象自治体4県(福島・茨城・栃木・群馬)と、それらの隣接自治体等1都12県(青森・岩手・宮城・秋田・山形・新潟・長野・埼玉・千葉・東京・神奈川・静岡・山梨)の計1都16県中、青森、新潟、山梨以外の1都13県から、放射性ヨウ素または放射性セシウムの規制値を超えた食品が、110598件中1183件見つかり、出荷制限措置がとられました。 福島・茨城両県の調査実績:最も深刻な福島県でさえ一年間の調査総数は20672件で、700件が規制値を超えていました。1日平均では57件中2件が超過食品(たけのこ、露地・原木しいたけ、ほうれんそう、アブラナ科野菜、コモンカスぺ、アユ、アイナメ。原乳、牛肉、猪肉など)ということです。二番目に深刻な茨城県では、一年間の調査総数は12430件で85件が規制値を超えていました。1日平均では34件の検査で4、5日に1件の割合で規制値を超えた食品が見つかるという状態です。福島県や茨城県でさえこのような状態ですから、ほとんどが無調査のまま出荷されていることになります。 水産物の調査実績:2011年10月7日現在の水産物の放射能汚染調査実績は、調査総数2579件で127件(福島県116件、茨城県7件、群馬県4件)が規制値を超えていました。内訳は、海産魚類1650件中66件が規制値越え(福島県59件、茨城県7件)、無脊椎動物(イカ、タコ類)389件中12件(福島県)、海藻類55件中8件(福島県)、加工品(魚介類)24件中0件、広域回遊性種(海産魚類中のカツオ、ビンナガ、イカ等)23件中0件、淡水魚類(アユ、ヤマメ、ワカサギ、ウグイ、イワナ等)432件中41件(福島県37件、群馬県4件)、哺乳類(クジラ)29件中0件でした。1日平均13件ですから、調査数があまりにも少なすぎます。 なお、海洋の汚染は、事故直後に表層生物(浮魚)で始まり、5月中旬に海藻類、下旬に底生生物(底魚。アイナメ等)に及びました。底生魚類でも、ゴカイやエビ、カニを食べるアイナメの汚染が、小魚を食べるヒラメよりも大きいという特徴があります。また、淡水魚は、海水生物よりも生物濃縮がいちじるしいという特徴があります。河川流域の内水面は今後とも、山岳森林地帯に降り注いだ放射性降下物(人工放射性物質)の流入が漸増し続けるため、厳重な注意が欠かせません。  主食の米の調査実績:2011年の作付制限は、土壌中の放射性セシウムの玄米への移行係数0.1を基に乾物土壌1kg当たり5000 Bq以上の水田が対象でした。国の玄米調査法では、旧市町村ごとに1 ~5点の予備調査で200 Bqを超えれば概ね集落ごとに1件ずつ本調査し、暫定規制値500 Bq以下なら出荷できます。 福島県知事は、栽培可能な水田から収穫した玄米に規制値を超えるものがありませんでしたから、当初すべての県産米が出荷可能であることを高らかに宣言しました。しかし、調査されず不安に思った山間の農家の要請を受けた地元JAなどの自主調査で、山間などの水田から規制値を超える汚染玄米が続出しました。国の定める調査点数がいちじるしく少なすぎたのです。福島県は、急遽、調査地点・農家数を大幅に増やして、「米の放射性物質緊急調査」を進めました。特定避難勧奨地点のある地域や玄米のモニタリング調査でわずかでも放射性セシウムが検出された地域については、出荷を当面見合わせることにして、緊急に全戸調査を実施したのです。 福島県は、緊急調査結果に基づき以下のことを決めました。100 Bq以下の地域の米については、出荷見合わせを解除する。100 Bq以上で500 Bq以下の地域の米については、特別隔離対策の対象となるよう国に要請し、引き続き出荷を見合わせる。出荷できる地域において諸般の事情で未調査となった農家の玄米も調査するとともに、国の特別隔離対策を活用して100 Bqを超える県産米が一般に流通しないように努める。また、2012年産米からは全袋調査することにしました。  なお、2012年2月28日、農水省は、今年の稲作について、昨年産米の出荷規制地域の作付制限と、玄米が100 Bq以上、500 Bq以下の地域の作付について、全袋調査などを条件に認めることを決めました。しかし、作付け可能な全汚染田の玄米の調査密度の飛躍的な濃密化までは言及していません。玄米の放射能汚染が新規制値を超えたために出荷できない生産農家への十分な補償はもちろんですが、危険な汚染米が絶対に流通しないように国と県と東電はしっかりした対応・対策が不可欠です。 現状では主食のお米でさえ、国の定める調査基準は調査件数が圧倒的に少なく、ほとんどが無調査で出荷される状態です。 (3)新基準値に基づく食品の放射能汚染の公的調査結果の姑息な公表方法 2011年3月17日から始まった暫定規制値に基づく公的調査の結果は、3月19日から集約して厚労省のホームページに公表され、2012年3月30日までは全都道府県の日々の詳細な調査結果の多数の表と、それらを集約した積算値を鳥瞰できる1枚の表「食品中の放射性物質検査の結果について(概略)」が掲載されていました。ですから、上述の(2)食品の放射能汚染の公的調査の杜撰な実態の項では、全国の調査実績や福島・茨城両県の調査実績を難なく紹介することが出来たのです。 2012年4月1日から始まった、新基準値に基づく公的な調査結果についても、4月6日までは従前どおりの掲載方法で、「食品中の放射性物質検査の結果について(平成24年4月1日以降検査実施分)(概略)」という表がありました。ところが、2日休んで4月9日からの公表では、この「(概略)表」が消えてしまいました。 4月6日の「(概略)表」をみると、福島県では、6日に農産物を78件調査して、8件(フキノトウ、タケノコ)が新基準値100 Bqを超えていました。水産物は前日までに44件調査して、15件(海水魚のアイナメ、シロメバル、ヒラメなど)が新基準値を超えていました。茨城県では、6日まで農産物を27件調査して、7件(原木シイタケ、タケノコ)が規制値を超えていました。水産物では、6日に28件調査して、2件(淡水魚のイワナ、ヤマメ)が規制値を超えていました。その他では、6日に4件調査して3件(乾シイタケ)が規制値を超えていました。 ですから、このホームページの作成担当官は、このまま従前どおりに「食品中の放射性物質検査の結果について(平成24年4月1日以降検査実施分)(概略)」を編集していくと汚染食品の頻度が目立ちすぎると感じたのでしょうか。姑息にも、同表の掲載を止めてしまったのです。こんな所にも、放射能汚染を軽微に見せたい政府の思惑が現れています。 姑息といえば、新基準値が適用された20日後、農水省は「食品中の放射性物質に係る自主検査への対応に関する通知」なるものを食品産業事業者向けに発出しました。政府は、一片の局長通知で、「全国の住民が自分たちの食べる農林水産物の安全性の自主検査をするな」と命令したのです。自主検査をするなら、国の基準値を指標にしなさい、という命令です。主権在民の日本国憲法をいただく我が国において、このような人権無視の横暴が許されて良いものでしょうか。本来、何人も、各自の意思に従って、いかなるものを飲食しようが、麻薬及び向精神薬取締法や酒税法などに違反しない限り、政府からとやかく規制されるいわれはありません。しかも、この新基準値の決定プロセスにおいても、パブリックコメント募集期間中に、新基準値を審議する放射線審議会の前会長(東北大学名誉教授)中村尚司氏および現会長の丹羽太貫氏が、複数の関係学会会長に厳しすぎるという「やらせ」意見書の提出を各学会会員に要請する文書を出していたことが判明しています。 そもそもは、昨年3月11日から顕在化した、政府の情報隠しの「大本営発表」体質と「御用学会・御用学者」等の「大政翼賛」体質のなせる業です。野田佳彦首相による2011年12月16日の「事故収束宣言」と「避難区域見直し」発表から6月16日の「大飯原発再稼働」の最終決定までの一連の道理に背く暴挙は、人びとの命と暮らしをまったく顧みず、基本的人権を踏みにじる現政府のこの間の国政の異常さを如実に示すものです。 4.放射能汚染食品の規制値の歴史 (1)チェルノブイリ原発事故直後  1986年4月のチェルノブイリ原発事故当時、一般人の年間の線量当量限度は5mSv/年(ICRP 1977年勧告に基づく)でした。厚生省は、旧ソ連圏や欧州からの放射能汚染食品の輸入を規制するため、一般人の線量当量限度5 mSv/年、汚染輸入食品の割合、国民の食品摂取量、食品による被曝割合等による推計値を求め、さらに米国やEC(欧州共同体)の規制値を参考にして、輸入規制値を定めました。すなわち、全食品の放射性セシウム(セシウム134とセシウム137の合計)について、1kg(またはlittle)当たり370 Bq以上で輸入禁止としました。 (2)ICRP 1990年勧告以後 1990年、ICRPが一般人の年間の線量当量限度を5 mSv/年から1/5の1 mSv/年(年間がん死リスクは10万人に1人)に下げる勧告を出しました。そこで1998年、政府はこのICRP勧告を受け、一般人の年間被曝許容限度を1 mSv/年に下げました。しかし、ヨウ素やセシウムの輸入規制値を1/5に下げることはしませんでした。そして2011年3月17日の通達にみる野菜や穀物のセシウムの暫定規制値は1kg当たり500 Bqでした。 (3)海外の事例 ちなみに、ウクライナでは、一般人の年間被曝許容限度は同じく1mSv/年ですが、放射性セシウムの暫定規制値は、1kgまたは1little当たり飲料水2 Bq 、牛乳100 Bq 、野菜40 Bq、肉類200 Bqとなっています。また、ドイツの放射線防護令は、一般人の年間被曝許容限度を0.3 mSv/年としています。ドイツ放射線防護協会は、この限度を基準にして、放射性セシウム汚染食品の摂取制限として、乳児~青少年は1kg当たり4 Bq以上、成人は8 Bq以上の食品を摂取しないように推奨しています。この推奨値でも、人口8000万人のドイツでは毎年1200~12000人の癌死の増加が予測されています。この予測値を人口1.278億人の日本に当てはめれば、癌死の増加はこの1.6倍です。 (4)ICRP(国際放射線防護委員会)の身勝手なご都合主義  ICRPは、1928年のICR(国際放射線医学会議)総会で発足したIXRPC(国際X線およびラジウム防護委員会)を1950年に改称して発足し、現在に及んでいます。そこで、現在までの主要な勧告を見てみましょう。年代が進むごとに、米国を頂点とする国際的な「核開発利益共同体」の身勝手なご都合主意が台頭し、彼らの意のままに勧告が成案化される様が、赤裸々に見て取れます。ICRPは、その名称とはまったく裏腹に、核施設作業従事者や一般人の放射線防護を二の次にして、彼らの意のままに安上りの核開発を進めるための道具でしかありません。  1950年勧告:ICRPと改称後、初の勧告であり、核施設従事者にのみ、150 mSv/年(3 mSv/週)の許容線量を設定しました。一般人向けの具体的な許容線量は示さず、「被曝を可能な最低レベルまで引き下げるあらゆる努力を払うべき」(to the lowest possible level)という文言だけに留まりました。言葉だけといえ厳しい表現になった背景には、遺伝学者によるショウジョウバエの突然変異実験において「遺伝的障害」が明らかになったことがあります。しかし、具体的な許容線量を明記することは、米国の抵抗によって叶わなかったのです。  1954年勧告:年間許容線量は、核施設作業従事者 150 mSv/年、一般人 前者の10分の1(15mSv/年)であり、「実行可能な最低レベル」(the lowest practicable level)という一段下がった表現になりました。  1958年勧告:年間許容線量は、核施設作業従事者 50 mSv/年、一般人 5 mSv/年で、「実行可能な限り低く」(as low as practicable)と、さらに一段下がった表現になりました。  1965年勧告:「社会・経済的要因を考慮の上、容易に達成できる低さ」 (that all doses be kept as low as is readily achievable, economic and social consequences being taken into account )と、いよいよICRPの本性を露わにしたもので、「ALARA勧告」と称されます。一般人の5 mSv/年を「線量当量限度」と称することにしました。  1973年勧告:「合理的に達成できる低さ」(as low as reasonably achievable)と本性を幾分見えにくくしましたが実態は変わらず、これも「ALARA勧告」と称されます。  1977年勧告:新システムとして、三原則「正当化」「最適化」「線量限度」(justification, optimisation = as low as reasonably achievable, application of dose limits)を導入しました。「正当化」とは、原発などの核開発には代替不可能な便益があるということです。「最適化」とは、1965年のALARA勧告の「社会・経済的要因を考慮の上、容易に達成できる低さ」のことです。「線量限度」とは、人びとの被曝限度を定める際に「集団線量」概念を導入し、「費用」対「人命救済効果」分析を行い、放射線障害による人びとのある程度の死を前提とする安上りの費用で核開発を進めようとするものです。この勧告では、核施設作業従事者の年間被曝限度についても、「線量等量限度」と称することにしました。 1990年勧告:核施設作業従事者の従来からの線量当量限度50 mSv/年に、「あるいは100 mSv/5年」という付帯事項が付きました。また、一般人の線量当量限度5 mSv/年が1 mSv/年に下げられました。ただし、基本的な線量計測量である人体の吸収線量に関する同勧告の定義は、「各組織・臓器内の平均線量を意味する」ということで平均化してしまうなど、同勧告には内部被曝を無視・隠蔽するためのさまざまな作為が感じられます。 本来、アルファ線やベータ線による内部被曝が微細なピンポイントで生じることを念頭に置けば、ICRP勧告の如き「内部被曝隠し」ではなく、ECRR(欧州放射線リスク委員会)の2003年勧告や2010年勧告の如く、内部被曝を正当に評価する勧告になる筈です。結局、IAEA(国際原子力機関)もWHO(世界保健機構)も、米国と国際的な「原子力ムラ」のエゴに牛耳られ、その中心にICRPが鎮座していたのです。そして彼らは、世界の放射線科学全般を、政治・経済的観点を重視する内部被曝隠しの似非科学に仕上げ、世界中の市民に一方的な犠牲を強いる体系を構築していたのです。 ですから、このようなICRPの勧告に依拠する食品の放射能汚染の「基準値」が、私たち住民の味方である筈はありません。  私たち市民と科学者の内部被曝問題研究会が政府に対して七つの提言をした理由と背景は、以上のとおりです。 以上

0 件のコメント: