2013年3月25日月曜日
原子力委員会委員長代理、鈴木辰二郎氏のベルリンでの講演.
http://d.hatena.ne.jp/eisberg/20110702/1309596222
昨日、7月1日(金)ベルリンの日本国大使館にて原子力委員会委員長代理の鈴木辰二郎氏が「福島原子力発電所事故 これまでに明らかになったこと及び推測」と題される講演をされると聞いたので行って来た。
この会は目的のはっきりしない奇妙なものだった。というのは、私は日本国大使館のメーリングリストのメンバーである知り合いから偶然、そのような会があると知ったのだが、大使館のHPを見ても何の記述も見当たらず、その知り合いがメールで転送してくれた参加申し込み用紙にも主催者が誰か、対象者は誰かということが明確になっていない。もしかしたら内輪の会なのかと思ったが、興味があったので申し込み用紙をコピーさせて頂き、メールで申し込んだ。しかし、大使館から返事はなし。数日後に電話で問い合わせて、ようやく参加を受け付けてもらった。(この電話は私ではなく、ドイツ人の夫がした。日本人の私は体よく断られる可能性があるが、ドイツ人相手に正当な理由なく断ることはできないだろうと考えたので)
指定の時間に大使館へ出向くと、係員が入り口の外でリストを手に立っており、名乗ると中に入れてくれた。しかし、館内は他の職員らはすでに帰宅した後でしんとしており、講演会の張り紙もなく、非常にこそこそとした雰囲気であった。参加者はざっと60名程度。ドイツ人と在独日本人だが、どういう人達なのかよくわからない。私はドイツの原子力関係者などが集まるのだろうと思っていたが、専門家らしい人の姿は見あたらなかった。つまり、一般向けのオープンな情報提供会でもなく、かといって専門家の内輪の会合でもない、まったく意義のわからないもので、大使館側は「本当はこんなことはやりたくないのだが、しかたないのでやる。面倒なことにならないようにサッサと終わらせたい」と思っているのがありありとわかった。
最初に大使館職員の日本女性がドイツ語で長々と挨拶をした。紋切り型の意味のないスピーチだったので、内容についてはここでは紹介しない。その後、鈴木氏が流暢な英語でにこやかに講演を始めた。相手が脱原発を決定したドイツ人ということで、特に意識するものがあったのかどうかわからないが、スピーチの基調は「今回の事故は想定外であった。警告していた科学者もいたが、我々はそれを真剣に受けとめて来なかった。現在の状況は非常に深刻であるが、全力を上げて対処に当たっている。事故以前の日本のエネルギー政策は見直さざるを得ないが、まだはっきりとした計画はない」という反省モードで、明らかな嘘や論理の破綻はなく、少なくとも言っていることは正直であった。講演内容の大部分は技術的な説明で、一緒に参加した夫(物理博士)も説明に特におかしな点はないという意見。スライドとして見せた資料も見せられる範囲できちんとしたものを用意していた。
汚染の状況に関しては、福島原発から放出された放射性物質の量はチェルノブイリの10分の1から5分の1であるとし、「二週間前には10分の1でしたが、今は5分の1になりました。悪化しています」と説明。さらに、「しかしこの数字には海の汚染は含まれていません」と補足。(まだ海に流れ込んでいない汚染水については言及なし)「避難している一部の住民には将来、帰って頂けると思う」そうだが、その根拠は示さず、除染対策などについても全く触れなかった。
「広島長崎は平和のシンボルとなった。福島も復興のシンボルになれるのではないか。Why not?」
このように鈴木氏は述べた。私はそのような楽観的な見方は全く共有しないので鼻白んだが、彼は韓国における講演でも同様の発言をしていたようだから(原子力委員会HPに資料がある)、そう来るだろうとは思っていた。
講演の内容にはまったく新しい情報はなく、「話せる範囲で正直に話した」というものに過ぎなかったので、内容についてはこれ以上紹介しない。原子力委員会のHPに5月に鈴木氏がスェーデンのストックホルムで行った講演資料が掲載されており、それとほぼ同じもの(しかし、短縮されていた)ので、興味のある方はそちらを参照して欲しい。こちら
さて、講演が終わり、これからいよいよ質疑応答と期待したとき、最初に挨拶をした職員の女性が「鈴木氏はこれから別の予定がおありですので、質問は一つか二つということにさせて頂きます」と、一刻も早く会を終了したい素振りを見せた。そこで急いで挙手し、質問をさせてもらった。以下は私と鈴木氏のやり取り(英語)である。
私 「質問したいことがたくさんありますが、二つに絞ります。まず一つ目は、原子力委員会はこれまでに、国民を被曝の危険から守るために具体的にどのようなことをされましたか。原子力委員会のHPを拝見しましたが、福島事故に関しては国民から寄せられたパブリックコメントを公表している以外にはまったく何の情報も提示していません。鈴木氏が今日のこの講演のように日本の外で多くの情報を提供していらっしゃる一方で、国民は原子力委員会から何の情報も得ていません。これはどういうことなのでしょうか。私は日本にいる家族や友人のことが大変気がかりですから、事故以来、情報収集に努めていますが、参考になるのはドイツ語や英語のものばかりなのです。そこから得た情報を日本にいる人達に伝えると、大部分の人がそんなことは聞いていない、私達が得ている情報はまったく違うものだという返事が返って来ます。これをどう理解したらいいのでしょうか」
鈴木氏 「(にこやかに頷きながら)私共のメンバーは5人しかいないのです。そのうち3人は主に技術的な分野を担当しており、残る二人が社会的な面などを担当しております。私達はできるだけのことはしておりますが、活動はプライベートな性質のもので広報は行っておりません。HPに国民に向けた情報がないのはそのためです」
具体的にとお願いしたが、少しも具体的なことは聞かれなかった。原子力委員会が国民を危険から守るために何かをしているはずもないので、そもそもこういう質問をすることには意義はないのだが、参加しているドイツ人に日本国民がきちんとした情報を得ていないことをアピールしたかったので、形式的に質問しただけである。
私「二つ目の質問です。これまでの公の発表では3月15日までに3つの爆発があったとされています。しかし、私はインターネット上で3月21日にも爆発があったのではないかという情報を得ました。この爆発は3号機のサプレッションチャンバー内におけるもので、これにより膨大な量の放射性物質が大気中に放出されたとされています。東大の早野教授のチームが作成した放射線グラフを見ますと、15日までのピークの他に、21日にも大きなピークが認められます。これは日本分析センターHPのグラフでも確認することができます。5月16日に東電が発表した修正データを元にある個人の方が3号機内の圧力をグラフ化したものがここにありますが、これを見ると21日に圧力が急激に上がり、その後再び低下しているピークを認めることができます。そしてそのピークの直後にグラフはマイナスのピーク、つまりゼロ以下のデータを示しています。このことは、21日に3号機で爆発事象があり、その際に格納容器が損傷を受けたのではないかと思えるのですが、どうなのでしょうか。ご説明頂けたらと思います」
鈴木氏 「はい、そうですね。確かに21日に何かが起こったのではと懸念させるデータがありますね。しかし、東電から報告がないものですから、よくわからないのです。現時点でもデータは完全とは到底言えず、まだまだわからないことがたくさんあります。すべてが明らかになるにはかなりの時間がかかるでしょうね。だからご説明できません。アイムソーリー」
鈴木氏は始終にこにこと落ち着いた様子で私の質問を聞き、私が何を言いたいのかをはっきりとわかっていたことと思う。この質問の内容が見当違いのものであれば、専門家としてそれを正したはずだが、否定も訂正もせず、「東電が言わないのでわかりません」で終わらせた。それ以上追求しても無駄なので、質問はそこまでにした。
私が職員の女性にマイクを返すと、女性は「では、これで会を終了させて頂きます」と大慌てで無理矢理、講演会を終了してしまった。ドイツ人の参加者数名が何か質問したそうであったが、職員はそそくさとして一刻も早くみなに出て行ってもらいたいという様子だった。会の後に一人の日本人の男性が「よく発言なさいましたね」と声をかけてくださったが、後の日本人はさーっと帰って行った。ホールの外のフロアに申し訳程度の飲み物が用意されていて、ドイツ人参加者の何人かは無言で水やジュースを飲んでいた。何人かのドイツ人が「お気持ちわかります」という表情で私を見たが、大使館内で日本を批判するわけにもいかず、皆無言だった。普通であれば、ドイツ人というのは質問好き、議論好きで、納得するまで何時間でも話し合い、講演会というのはオープンな場なのだが、昨日の会は後ろめたさを背負ったアリバイ作りの会という感じだった。
この会に出席して何か得られるところがあったかと言われれば、新しい情報もなく、時間の無駄だったというしかないが、20~21日の爆発の可能性について原子力委員会は否定しなかったということをここに報告したい。
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