2013年3月31日日曜日
(福島の破局的事故の健康影響-福島県「県民健康管理調査」検討委員会のプロジェクトと報告書についてのコメント.(クリス・バズビー。 )
http://labor-manabiya.news.coocan.jp/shiryoushitsu/Busby_fukushimaken_houkokusho_komento_matsuzaki_kanyaku.pdf
グリーン・オーディット;臨時論文2011年。 アベリストウィス、イギリス、2011年8月27日。【翻訳: 鈴木宏子、松崎道幸(監訳)】
(コメントを出すに至った経緯。) 日本の京都を本拠地として活動しているグリーン・アクションから、『平成23年度第3回福島県「県民健康管理調査」検討委員会次第』の英語訳が届きました。以下に2011年7月24日に福島県本庁舎で行われた会合の議事録とこれに付属する資料[1]についてのコメントを記します。 (人体汚染の測定結果について。) 『平成23年度第3回福島県「県民健康管理調査」検討委員会次第』[1]の3~6ページ(日本版では4~8ページ)には、109人を対象にしたと思われる被ばく調査の測定結果が載っています。ここでは(1)セシウム137とセシウム134の核種をホールボディカウンターで測定した結果と、(2)尿サンプル中に含まれるセシウム137とセシウム134、ヨウ素131を測定した結果が記されています。ホールボディカウンターによるセシウム測定の結果からは、検出限界(320ベクレル)から3500ベクレル程度の被ばくが読みとれます。しかし度数分布を示す柱状グラフはなく、4ページ(日本版では5~6ページ)のセシウム137とセシウム134の相関関係を示す図表にはデータ点が35点しかありません。3ページ(日本版では4ページ)のグラフによれば109人の住民が検査を受けたはずなのに、これはおかしいのではないでしょうか。それにそもそもこの場合、被ばく量の分布を示すのですから度数図として示すべきなのです。同様に、5ページ(日本版では7ページ)の尿についての結果も、セシウム137では23点、セシウム134では26点しかデータ点がありません。 ヨウ素の測定結果や甲状腺部スキャン検査結果についても触れられていません。その上、危険な核種であるストロンチウム90、ストロンチウム89、バリウム140、トリチウム、炭素14、硫黄35、ウラン238、ウラン235、プルトニウム239も測定されていません。 以上、『平成23年度第3回福島県「県民健康管理調査」検討委員会次第』の内容については一見しただけで (1) 記述が科学的に不適切。 (2) 79人分のデータが示されていない。 (3) 甲状腺のガンマ線スキャンが行われたがその結果が示されていない。 (4) アルファ線およびベータ線を出す核種の測定が行われていない。 ということが言えます。 つまりこれらの測定結果はいずれも「科学とはほど遠いもの」として破棄すべきでしょう。 原子力発電推進派に都合のよい解釈がなされている点について 測定結果にはさほど紙面がさかれていないのに、誤ったコメントやひどく危険な方向に捻じ曲げられた「科学的説明」が長々と述べられています。いくつか例をあげてみます。 ● 7ページ(日本版では8ページ) この表には「100mSv以下:がんの過剰発生が認められない」と書かれています。これは事実に反し、がんの過剰発生を裏づける例が科学論文にいくつも示されています。体内に入った放射性核種によって被ばくした場合、吸収線量が0.1mSvと非常に低くてもがんの過剰発生が見られます[2]。10mSv被ばくした子どもではがんの過剰発生が40%におよぶという研究もいくつかあります[3]。チェルノブイリ事故後では、2mSv以下だったと判定されている被ばく量でもがんの過剰発生が認められているのです[4]。これについての詳細はECRRによる2009年と2010年の報告書を参照して下さい[5, 6]。 ● 8ページ(日本版では8ページ) 「放射線量とがん」以下の文章でも100mSv以下の被ばくでがんが増加するかどうか述 べられていますが、やはり正しくありません。これは原子爆弾の調査から得られた結論ですし、広島と長崎に落とされた原爆の犠牲者の受けた被ばくのうちどれくらいが内部被ばくであるかが不明だからです[6, 7]。外部被ばくでも内部被ばくでも線量が同じならばリスクは同じという見解には科学的根拠はなく、むしろ全く反対なのです[2, 6]。 ● 16、17ページ(日本版では15~16ページ) 『(16ページ)…東京電力福島第一原発事故による放射線の健康影響については、現時点での予想される外部及び内部被ばく線量を考慮すると極めて少ないと考えられます。しかしながら、チェルノブイリで唯一明らかにされたのが、放射性ヨウ素の内部被ばくによる小児の甲状腺がんの増加であったことから…』『(17ページ)…チェルノブイリ原発事故で唯一明らかにされたのは、放射性ヨウ素の内部被ばくによる小児の甲状腺がんの増加のみであり、その他の疾病の増加については認められていません。』というくだりがあります。これら見解は明らかにまちがいです[4-6]。また何の調査もしないうちから結論を決めてかかっています。 (セシウム137の吸収線量の計算について) 福島県民の被ばく量は、外部被ばくと内部被ばくの両方を明らかにして計算すべきと考えます。外部被ばく量がどれくらい増加したかについては、かなり簡単に計算することができます。平均超過外部線量率がわかっているためです。つまり、当初はヨウ素が原因で平均超過線量が高く、次いでセシウムによる表面汚染から一定の被ばくを受ける環境に1年いたとすると、1μSv/h、すなわち9mSvの被ばく量となります。ところで福島県当局が内部被ばくを判定するために用いたのは、セシウム134、セシウム137、ヨウ素131です。そしてICRPの線量係数による吸入および経口摂取モデルから内部線量を計算しています。核種としてセシウムとヨウ素を採用しているのは、セシウムとヨウ素が強力なガンマ線を出すために比較的計測しやすいからです。その例として、以下の図1に、福島原発の原子炉から100km離れた地点を走っていた車のエアフィルターを検査して得られたガンマ線スペクトルを示しました。さらに表1にICRPの線量係数とECRRの線量係数の比較を示しましたが、この表を見ると、セシウムの線量係数よりも、福島原発から放出された他の核種(特にアルファ線を出すウランとプルトニウム、またストロンチウムなど)の線量係数のほうがずっと高いことが明確にわかると思います。 もちろん福島県当局は、これを承知の上でこの報告書を作成したのにちがいありません。上で取り上げた事情や、他の核種による内部被ばくにまったく触れていないのはそのためです。それに体内に取りこんでしまった放射性微粒子から様々な種類の被ばくを受けるという事実(こうなると吸収線量という考え方は適用できません)を問題にすらしていません。ECRRでは内部被ばくに20倍から1000倍の重み付けをしています。 図1.福島第一原発から100kmの地点の自動車のエアフィルターから回収された汚染粒子のガンマ線スペクトル.セシウム134のピークが明確に描記されている. 原発事故による放射線被ばく問題は、このようなやり方で収拾されてきました。チェルノブイリ事故の時にIAEAが行ったように、被ばく量をセシウム137だけに限定して、ICRPの線量係数を用いて計算されることになります。この報告書には、ホールボディカウンターで最大3500ベクレルのセシウム137が検出されたと述べられています。セシウム137のICRP線量係数(表1)は、3.9×10-8ですから、(50年間の)実効線量は0.13mSvとなります。これは自然放射線量の10分の1以下の線量です。福島県当局はこのようなわずかな被曝で健康被害が起きるはずがないと言うでしょう(すでに言っていますが)。これも事実を隠ぺいする手法の一つです。しかし、もしホールボディカウンターで計測された人が計測値の10分の1の線量のプルトニウム239とウラン238を体内に取り込んでいたなら、どうなるでしょう。プルトニウムとウランはアルファ線を出す核種なので、ホールボディカウンターでは線量を測定できません。350ベクレルのプルトニウム239は350×6×10-4=210mSv(ICRPおよびECRR)、350ベクレルのウラン239はICRPの線量係数で2.8mSv、ECRRで 280mSvの被ばくを成人にもたらします。これらの物質は尿から簡単に検出できますが、そのような測定が行われたという記録は見当たりません。 県民健康管理調査(報告書9ページ以降参照) 汚染地域に住む県民の健康調査を担う県上層部のチームが適切な健康調査項目を設定せずに、主に心理的精神的問題に的を絞った調査を行おうとしているのは実に奇妙です。しかしながら、その理由はこの管理調査と言う名称に如実に示されています。疫学調査ではないのです。このような調査内容にした理由について当局は次のように主張しているのです。 1. 被ばく線量は少ないため、ガン、白血病およびその他(心臓病、脳卒中、体調不良、早老化、消化器疾患、先天性疾患、生殖障害など)の病気は発生し得ない。 2. これらのことはチェルノブイリにおける(バイアスに満ちた恣意的な)研究調査ですでに分かっている。また世界保健機関の分析も参考にしている(世界保健機関は、核エネルギー推進を使命とするIAEAの従属機関である)。 3. したがって、1に列挙した健康影響が日本の他の地域よりも福島の汚染地域で増加するかどうかを調査する必要性は存在しない。 4. 調査で得られた結果は疫学的証拠とはなりえない。何故なら、これは疫学調査ではないからである。たとえ健康影響が増えたという逸話的事象が発生したとしても、それは、放射線恐怖症によるものである。心理的精神的問題は住民の精神状態を調査してカウンセリングを行うことで解決されるだろう(18ページ)。 5. 超音波による詳細な妊婦健診(19ページ)により障害のある胎児の妊娠中絶が可能となり、これにより先天奇形の発生率を低下させることができるだろう。 6. このようにして、今回の大事故の真の健康影響を管理することが可能となる。 この健康管理調査の概要から、以上のことが明らかに読み取れます。まともな疫学者なら、速やかに、ガンと白血病の発生率、心血管疾患、呼吸器疾患、消化器疾患、生殖障害、免疫疾患、出生関連疾患、乳児死亡率などに関する健康状態についてのベースライン指標を明らかにするための適切な科学的調査の準備を行うでしょうが、健康管理調査検討委員会は、まったく疫学的調査を行おうとしていません。まともな疫学研究者なら、今後住民を追跡して、病気が増えないかどうかを明らかにしようとするでしょう。しかし、検討委員会は、最初から、放射線被ばくによって病気が増えるはずがないと決めつけています。これは科学と言えません。また、健康被害が起こるはずがないという推論自体が、放射線被ばく状態の不完全な評価に基づいているのですから推論科学とも言えません(広島の原爆被ばく被害との誤った比較を別としても)。これは純然たるごまかし以外の何物でもなく、検討委員会のメンバーは、全員法廷に召喚して弁明を行わせ反対尋問を行う必要があります。( 結論) この健康管理調査に関する文書は、県当局が放射線被ばくの健康影響を隠すための計画を推進する立場にあることを早々と示す衝撃的なものです。以前の(チェルノブイリの:訳者加)経験から、以下に示す様々な方策が講じられるだろうと予測できます。 (1) 放射線曝露量を少なく見積もる。 (2) 被ばく核種をセシウムとヨードだけに限る (3) 健康影響を調査しない (4) いかなる健康被害も精神的なものであると言い逃れる 日本もソ連と同じ対処をすることがはっきりしました。チェルノブイリ事故後に駆使されたすべての戦術が福島で再び行われています。 勧告 1. 「県民健康管理調査」検討委員会は、法廷で心神喪失および共同謀議の有無について審問を受ける必要がある。 2. 当局とつながりのない独立した機関による健康調査を実施すべきである。 3. アルファ線発生核種およびオートラジオグラフィーによる粒子検査などの生体資料に関する独立した計測を行うべきである。 (C. Busby) 【原文】 The health outcome of the Fukushima catastrophe Comments on the projects and reports of the Review Committee for the Fukushima Prefecture “Prefectural Peoples Health Management Survey” Prof. Dr Chris Busby。
(原文.PDF.論文) http://www.crms-jpn.com/doc/CommentForFukushima.pdf
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