2013年3月31日日曜日
◆米国の夢を実現する日本の政治の劣化(その1)◆兵頭正俊.
3月26日に、財団法人日本青少年研究所が、高校生の意
識調査の結果を公表した。この調査は昨年9~11月、日
本、中国、韓国、米国4か国の高校生計約6,600人にアン
ケートした。それによると日本の高校生の「出世欲」の
低さが際だつとした。
同研究所はその理由として「不況の影響か、『とにかく
就職さえできればいい』といった意識が5垣間見える」
と分析している。
バカな分析だ。「偉くなりたいと思うか」という質問に
「強く思う」と答えたのは、中国37%、米国30%、韓国
19%で、日本はわずか9%だった。
日本の若者が将来に夢を持たないというのは、これまで
も様々な調査から明確になっている。何も「不況の影響
か、『とにかく就職さえできればいい』といった理由の
ためではない。
若者が夢を持たないというより、夢を持てない社会を大
人が作ったのである。正確にいうとこの国の既得権益支
配層が、とりわけ自民党の政治が作ったのである。
高校生が将来偉くなりたいと思わないのは正しい。
なぜなら偉くなりたいと思っても、今の日本では不可能
なことをよく知っているからだ。
米国や中国にはまだその可能性があるのである。だから
高校生たちは夢を持てるのだ。
我が国の若者はデモひとつしない。デモをやって、もし
警察に捕まったら、学校ににらまれ、「反社会的」
「危険人物」 「過激派」の烙印を押される。
デモは世直しの行為であり、この国を愛するからこそ立
ち上がった、考える若者たちの行為であるという共通認
識が、 68~69年の全共闘運動の敗北以来、既得権益支
配層によって奪われた。そしてそういった若者の主張を
決して社会が受け入れない時代が続いている。
60年安保闘争、全共闘運動では、まだそういった認識が
政治家にも知識人にもマスメディアにも存在した。
今の若い人たちは意外に思うかもしれないが、新聞はも
ちろん、テレビ、週刊誌、月刊誌も、スクラムを組んで
立ち上がり、政府に抗議のデモをする若者たちに理解を
示していたのである。
路上の市民からの声援はもちろん、デモの若者にカンパ
する市民も大勢いた。
この国は変えられる、この社会は変えられる、という共
通認識が若者にも大人にも存在した。それが今はもうな
い。
68~69年の全共闘運動の敗北以来、若者はもう立ち上が
らない。むしろ資力さえあれば考えられるのは国外への
脱出であり、移住なのだ。
大学知を批判した教え子たちを、警察権力に引き渡した
大学教師は自信を失って沈黙し、消費税増税にも原発再
稼働にもTPP参加にも何も発言しない。
大学知は国民との接点を失い、状況から逃げ回るばかり
だ。たまにメディアに登場する大学教師はほとんど御用
学者であり、既得権益支配層を支持することしかいわな
い。その理由は明白である。自分たちが既得権益支配層
そのものだからだ。
◆米国の夢を実現する日本の政治の劣化(その2)◆
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政治の劣化はもっと著しい。民主党の野田佳彦はTPP参
加に賛成しながらISD条項を知らなかったし、自民党の
安倍晋三は「憲法改正」を唱えながら、我が国の憲法学
会で最も著名な憲法学者の名前を知らなかった。
安倍晋三の、この体たらくが明確になったのは、2013年
3月29日の参院予算委員会でのことである。民主党小西
洋之の、「安倍総理、芦部信喜さんという憲法学者ご存
じですか」との質問に、安倍は「私は存じ上げておりま
せん」と答えた。「私は憲法学の権威でもございません
し、学生だったこともございませんので、存じ上げてお
りません」
ところが質問した小西は、事前に質問を通告し、当日に
資料配布もしていたというから呆れる。
芦部信喜(1923~1999)は、べつに法学部の学生でなく
ても一般教養で憲法を学べば必ずといいほど名前の出る
学者である。
わたしは学生時代に文学部で日本文学を専攻した。しか
し、憲法の宮沢俊義、民法の末川博、我妻栄、刑法の団
藤重光といったところは学生時代に著作を紐解き、末川
博の講演は何度となく聴き、個人的にも話を伺い、氏の
サイン入りの著作もいただいた。
デモをしない学生も梯明秀や丸山眞男、吉本隆明、黒田
寛一といったところを読んでいたし、読まない向きも名
前は知っていた。
こういうのが60年代、 70年代の大学を覆っていた一般
的な空気であった。
それが安倍晋三のように「憲法改正」を長年の政治的主
張としている政治家が、我が国で最も著名な憲法学者に
して、文化勲章授章者の名前も知らなかったというのは、
笑い話では済まされない。
なぜなら参議院選挙の後に、安部晋三を先頭に押し立て
「自・公+民主党のA級戦犯たち・維新・みんな」の対
米隷属勢力は、「憲法改正」に突き進むからである。こ
の程度の憲法認識、このレベルの無知、このように不勉
強で軽い人物によって、 TPP参加後に植民地と化した我
が国の改憲は実行されるのである。このことは覚悟して
おいた方がいい。
質問した小西洋之は3月30日に次のようにツイートして
いる。
「要するに安倍総理は憲法を何も理解せずに、無邪気か
つ無責任に憲法改正を唱えているのです。幾多の立法を
行ってきた私の感覚では、自民党草案では第13条を改正
しているのだから、誰よりも憲法改正に熱心な安倍総理
は当然に現行憲法13条の存在も内容も即答出来ないとお
かしい」
(引用終わり)
安倍晋三がこの国をたたき売ろうとしている米国は、冷
静にかつ冷酷に我が国を見ている。1999年に犬HKで放送
された「地球・豊かさの限界 第1集一頭の牛が食卓を
変えた」で、アール・バッツ米元農務長官は次のように
語っている。
「食料はアメリカが持つ外交上の強力な手段である。と
りわけ食糧を自給できない日本には有効な手段だ。日本
に脅威を与えたければ、穀物の輸出を止めればいい。も
ちろん、それはあってはならないことだ。しかし、何か
事態が悪化して、そうせざるを得なくなれば、日本はひ
どいことになるだろう。」
(引用終わり)
アール・バッツの語ったところは食糧安保の常識の類で
ある。 TPP参加後に日本の農業は壊滅する。一時的に安
い農産物が米国、カナダ、メキシコから入ってきて喜ぶ
のはあまりにも情けない話である。
以後、日本は食料を交渉のカードにされ、防衛、金融、
医療、教育とすべての分野において、さらなる隷属を迫
られることになる。
日本の劣化した政治は、実は好きなように米国の夢を叶
えてくれる希望なのである。飢餓を脅しの材料に使いな
がら、真のターゲットは、我が国の郵貯マネー約270兆
円、保険医療を通じた日本人個人資産700兆円である。
それも簒奪された後には、我が国は、文字通り食べ物を
分けてもらうために必死に働き、富を米国に献上し続け
る奴隷国家になる。
自明のことを述べるが、食料を分けてもらえるのは、米
国、カナダ、メキシコ等で余剰があった場合の話である。
世界的な不作・飢饉で、自国の国民に食わせるのはやっ
との状態になれば、当然、日本への輸出は止められる。
「日本はひどいことになる」というのはそういう意味だ。
◆米国の夢を実現する日本の政治の劣化(その3)◆
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話を元に戻すが、この参議院でのやりとりはネット上で
も顰蹙を買っている。次の書き込みがその代表的な感想
であろう。
「法学部卒で憲法を論じるのに芦部信喜知らないって、
ON知らずに日本のプロ野球語るようなもんだぞ」
「つか芦部を知らない程度に憲法に興味がないのにどう
して改正だけはしたがるのかよく分からない。興味があ
ったらまずは基本書読んだりして勉強するだろ」
「ちなみに、経済学をやった人がケインズを知らないっ
てドヤ顔でいうレベルのこと」
「憲法知ってることの根拠として芦部を使った片山さつ
きに、お宅のトップ貴方の師匠である芦部知らないのに
憲法改正唱えてるんだけどどう思う? って聞きたい」
(引用終わり)
国政のトップがこの体たらくであるから、末端の政治は
もっとひどいことになっている。
『朝日新聞』が2013年3月30日付けで「市民の陳情書を
ゴミ箱に 大阪の維新市議、ブログに写真」と題して次
のように述べている。
「大阪維新の会の井戸正利大阪市議(50)が28日、自ら
のブログに、市による東日本大震災の災害廃棄物処理に
反対する市民が寄せた陳情書をゴミ箱に捨てた写真を掲
載し、「(陳情書は)市外からの扇動家が送り付けてき
たデマだらけのメチャクチャなもの」などと書き込んで
いたことがわかった。29日に削除したが、ネット上で批
判が相次いでいる。
大阪市は2月から岩手県の災害廃棄物を受け入れ、焼却
後に埋め立て処理を始めた。29日閉会の市議会では処理
費用を盛り込んだ新年度予算案が可決され、処理に反対
する多くの陳情書は採択されなかった。
井戸氏は元大阪府参事で一昨年の市議選で初当選した。
ブログでは、陳情書を捨てた写真とともに「仮置き場で
ある机の上に山積みしていたのが片付きました、あとは
焼却処理あるのみ」と記載していた。
井戸氏は朝日新聞の取材に「誤解を与える表現だった。
申し訳ない」と話している」
(引用終わり)
このレベルの政治家が多すぎる。この人間としての幼稚
さ、政治家としてのレベルの低さには暗澹とさせられる。
市民の陳情書をゴミ箱に捨てる行為ももちろんだが、そ
の行為を写真入りで自分のブログに貼り付ける行為には
唖然とさせられる。想像力も政治家としての見識も皆無
である。
「誤解を与える表現だった。申し訳ない」という弁明も
紋切り型のものだ。大阪維新の会の井戸正利市議は、誤
解など与えてはいない。国民は正確に井戸正利を見たの
であり、政治家としての資質がないことがはっきりした
のだから、井戸は責任を取って市議を辞めるべきである。
米国の夢は、日本の政治の劣化によって実現される。く
るくる変わる総理も米国にとっては歓迎すべき事象だ。
その度に長期政権を懇願して宗主国へ貢ぎ物がなされる
からだ。
この劣化した政治が参議院選挙の後にTPP参加を決め、
新しい植民地の憲法を決めて行く。その草案はすでにで
きている。
次の参議院選挙が決定的に重要である。ネット上の表現
で完結してはならない。ネットとリアルを往還し、リア
ルでの賛同者を5人、10人と増やして行かねばならない。
何よりも投票所へ赴かねばならない。政治をバカにして
棄権したとき、その後に襲ってくる空白の3年間は、ネ
ットもリアルも変えてしまい、往還を許さぬものになる
だろう。
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