2012年11月2日金曜日

( 国際法違反の新型兵器「劣化ウラン弾」・ウラン兵器と私たち民衆の責任) http://www.cadu-jp.org/data/responsibility.html 松井英介 (医師、岐阜環境医学研究所所長、岐阜・2001年の会代表) はじめに  アメリカ軍は1991年の第1次湾岸戦争で大量に使ったのを皮切りに、旧ユーゴスラビア、アフガニスタン、そして今回のイラク攻撃(第2次湾岸戦争)で、「劣化ウラン弾」を使い続けてきた。  「劣化ウラン」=ウラン-238は、原爆や原子力発電に使うウラン-235を濃縮する過程で大量に生まれる「核のゴミ」である。アメリカは1940年代から、これを兵器として使う研究を重ねてきた。「劣化ウラン」は放射性物質である同時に、重金属に特有の化学毒性をもっている。  攻撃を受けたイラクや旧ユーゴスラビアでは、白血病が多発し、先天障害をもった子どもが多く生まれている。また、これらの地域から帰還したアメリカ兵や従軍看護婦がさまざまなからだの不調を訴え、彼らから先天障害の子どもたちが生まれている。アフガニスタンでは、アメリカ・カナダの良心的な医学者の献身的な調査・研究によって、甚大な被害の一端が明らかになってきた。  アメリカ政府はそれを通常兵器と称し、「劣化ウラン弾」とそれによって攻撃を受けた地域での発がんや先天障害の多発との因果関係を否定しているが、彼らの態度は、無辜の被害者に対するこの上ない不遜・傲慢だと言わねばならない。  ところで、去る2003年12月14日に結審を迎えた「アフガニスタン国際戦犯民衆法廷」で、アミカス・キュリエ(法廷の友:被告人ブッシュ大統領の代理弁護人)のひとり井堀哲氏はつぎのように述べた。  「主権者である日本の民衆がブッシュ大統領とこれに追随する小泉首相を容認し支援している以上、果たしてこの民衆法廷にブッシュを裁く資格があるのか!?」  この重い問いかけを念頭に、以下、「劣化ウラン弾」・ウラン兵器と私たち日本の民衆(医師を含む)の責任について考える。 A)大量破壊兵器を使ったアメリカ合衆国と日本の戦争犯罪の歴史  1)「悪の枢軸」=「大量破壊兵器」宣伝のまやかし。  アメリカや日本政府が言い立てている大量破壊兵器とは、核:atomic、生物bBiological、化学:chemicalの各兵器(a,b,c 兵器)を指す。  a)核兵器:各国の核兵器保有量を、核弾頭の数でみると、アメリカ合衆国がダントツの10,600発、ついでロシア8,400発、中国450発、フランス288発、イギリス200発、イスラエル200発、パキスタン48発、インド35発と続くが、イラクが持っているという証拠はない(ベルギー「母なる大地の会」による)。アメリカが圧倒的に多い。なぜこれが査察の対象にならないのか。200発も保有しているイスラエルが査察の対象にならないのはなぜなのか。  ブッシュが「悪の枢軸」と名指ししたイラク・イラン・朝鮮だけに的を絞って核査察を行う不公正なやり方に、ます注目しなければならない。この不公正は、核査察を行う国際機関の軸になっている国際原子力機関(IAEA)の役員をアメリカ合衆国の多国籍企業トップが占めている事実と無関係ではなかろう。  b)化学兵器と生物兵器:日本政府と軍は、1930-40年代に生物・化学兵器の開発を行い、3,000人以上の中国人・朝鮮人など無辜の人々を実験材料とし、全員を殺した。またこれら国際法違反の大量無差別殺戮兵器を中国各地で実戦に使い、何の罪もない無数の人びとを死に追いやった。その過程で日本人医学研究者が手に入れた生物・化学兵器研究のデータと引き替えに、アメリカ合衆国政府と軍は、人類史上もっとも残虐な数千人にもおよぶ日本人医学研究者を免罪した。これらの医学研究者は、戦後、大学・政府研究機関、ABCC(広島にアメリカ占領軍が設置した原爆の影響調査機関)、製薬会社などで、重要な地位を占め、戦後日本の保健・医学・医療界を支配してきた。  2)歴史事実を覆い隠し、謝罪も賠償もしないアメリカ政府と日本政府  これらの歴史事実を、アメリカ合衆国政府と日本政府は覆い隠している。そして日本の民衆の多くも、この「負の遺産」と向き合い、つぎの世代に伝える努力をしないまま今日に至っている。  日本政府は、生物・化学兵器の被害者である中国人が求めている謝罪と賠償の請求  を無視し、戦後60年近く経過した今なお沈黙を守ったままである。  アメリカ政府と日本政府は、広島・長崎の原爆被曝者の体内被曝(後述)とこれによる障害をまったく無視している。ベトナム戦争時、アメリカ軍は日本政府の支持のもとに日本の基地から出撃し、ベトナムに大量の化学兵器を投下した。アメリカ軍が使った化学兵器・ダイオキシンによって、ベトナムの無辜の子どもたちは、取り返しのつかない障害を背負った。しかし、アメリカ合衆国政府は、今に至るも、ベトナムの子どもたちに、謝罪も賠償もしていない。  そして、今、日本政府と軍は、過去の大罪を隠し、被害者であるアジアの人びと一人ひとりに対する謝罪も賠償もしないまま、アメリカ軍と行動をともにする新たな侵略の道へと踏み出した。  これに対して、残念ながら今までのところ、日本の民衆の多くは異議申し立て=抗議の行動に立ち上がってはいない。 B)生態系を破壊し、深刻な体内被曝をもたらす「劣化ウラン弾」・ウラン兵器  ここまでで、与えられた字数が残りわずかになった。それはあらかじめわかっていたことだったが、自分自身を含む日本の民衆の歴史を振り返ることなしに、自らの戦争責任を論ずることはできないので、まずはそれを土台に据えることにした。  以下、「劣化ウラン弾」・ウラン兵器問題を考える上で、鍵になるいくつかの点を挙げた。「劣化ウラン」・ウラン兵器の人体への影響に関しては、拙稿『国際法違反の新型核兵器「劣化ウラン弾」の人体への影響』(アフガニスタン国際戦犯民衆法廷 公聴会記録第7集、P.25-40.2003年、耕文社)を参照いただきたい。  1)体内被曝こそ問題だ。  「劣化ウラン弾」の微小粒子[1μm(ミクロンメートル:1,000分の1ミリメートル)以下]は、空気中に浮遊し、数百―数千キロメートル離れたところまで、風で運ばれる。肺の中に吸い込まれたこれらの粒子は長くそこにとどまり、肺から血液やリンパ流に乗って全身に運ばれる。水や土に入り込み、野菜・穀物や家畜の体内に取り込まれた「劣化ウラン」は小腸から取り込まれ、全身に拡がる。骨髄に沈着した「劣化ウラン」粒子は、1日に約2回の割合でα線を出し、周囲の細胞に障害を与え続け、白血病の原因となる。胎盤にいたった粒子は胎児のDNAにキズをつけ、先天障害を引き起こす。α線の飛跡は40μmと短いが、細胞の大きさが10-20μmであることを考えれば、周囲にある細胞に及ぼす影響の大きさは容易に理解できる。アメリカ政府や日本政府のいう、「劣化ウラン」の放射線は紙一枚通さないから安全だ論のウソは、事実を知っていれば、間単に見破ることができる。体内被曝を無視した国際放射線防護委員会(ICRP)の体外被曝モデルは根本から見直さなければならない。ヨーロッパ放射線障害委員会(ECRR)が2003年に出版した、体内被曝モデル(図)を多くの人びとに知らせ、民衆の共通認識にすることが大切だ。  2)「劣化ウラン弾」・ウラン兵器は、原爆、水爆、中性子爆弾に次ぐ第4の核兵器である。「劣化ウラン弾」という形で、通常兵器との境界をあいまいにし、新しい核兵器を民衆に受け入れさせようというブッシュの企みを見抜かなければならない。  3)「劣化ウラン弾」の原料を、日本の電力会社が提供している。  日本の電力会社は、原子力発電用の燃料であるウラン-238濃縮の80%をアメリカに委託している。核濃縮の過程で産まれた大量のウラン-238を、アメリカ政府は民間に払い下げ、「劣化ウラン弾」という名の商品にしていることを、日本の電力会社が知らないはずはない。その責任を問うことは、日本の民衆の責任だ。  4)「劣化ウラン弾」被害の実態を世界保健機構(WHO)と国連環境計画(UNEP)に調査させることが重要だ。事実を民衆の目から覆い隠すことがブッシュの世界戦略の要だとすれば、事実を明らかにさせることを、私たちはまずやらねばならない。  事実を知り、知らせることは、民衆の力の源。  恐怖と絶望に陥れることによって世界の民衆を支配しようとするブッシュの無差別大量殺戮と地球環境生態系破壊戦略=アメリカ「帝國」一極支配構造。それを変えることができるのは、民衆の連帯の力だけなのだから。

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