2013年4月11日木曜日
チェルノブイリ原発事故から26年.ベラルーシ保健省の職員に聞いた母子のための健康対策.
http://www.cataloghouse.co.jp/yomimono/genpatsu/belarus/
(事故から26年経った今も放射能被害の対策は必要。)
—— チェルノブイリ原発事故のあと、通販生活では被災地の医療を支援する活動を開始しました。通販生活の呼びかけに対して19万人以上の読者が1990年〜2008年の18年間に4億7400万円ものカンパをお寄せくださったのです。カンパは現地で不足している医療機器を購入したり、医療専門家を派遣したりする費用として活用しました。18年もチェルノブイリに関わったわけですが、まさか日本で同じような原発事故が起こるとは思いもしませんでした。
エレーナ・ボグダン 私たちの祖国ベラルーシ共和国がチェルノブイリ原発事故によって、とても苦しい状況に追い込まれたときに日本の方々が助けてくださったことを私たちは決して忘れません。とくに通販生活読者のカンパがなければ、日本のNGOが長期にわたってベラルーシを支援することは難しかっただろうと聞いています。カンパで贈ってくださった多くの医療機器は、いまも被災地の病院で大切に使われています。また、日本で研修を受けた医師たちの技術は、私たち国民の財産となっています。日本のみなさんに心から感謝しています。
オリガ・リャーフ われわれに手を差し伸べてくれたその日本で、まさか原発の事故が起きるとは……。日本のみなさんの現在の心境をいちばん理解できるのはベラルーシ人だと思います。チェルノブイリ原発事故から26年経ったいまも、ベラルーシでは放射能被害に対してさまざまな対策をとらなくてはいけない状況が続いています。ベラルーシがどのような対策をとってきたかをお聞きいただければ、今後日本がどのような対策をとるべきかのヒントになるかもしれません。
(被災地の子どもたちは年に2回健診を受けている。)
—— 原発事故による放射能被害から子どもたちを守るために、ベラルーシではどのような対策がとられたのですか。
エレーナ・ボグダン ベラルーシでは、チェルノブイリ原発事故の5年後に、事故被災者への対策を実行していく「チェルノブイリ対策プログラム」を定めました。5年ごとに見直しながら、現在もこのプログラムに則って被災者支援を進めています。放射性物質に1平方キロメートルあたり1キュリー(37キロベクレル)以上汚染されたところを「汚染地」としており、ここに暮す人たちがプログラムの対象になります。
オリガ・リャーフ 健康診断は事故直後からスタートし、いまも続いている対策の1つです。汚染地の小学校、中学校、高校に通う6歳〜17歳の子どもたちには、年に2回の健康診断を行なっています。現在の対象者数は26万人くらいでしょうか。 1回目は検査項目が多く、甲状腺超音波検査と内分泌専門医の診断、血液検査、尿検査、眼科検査、歯科検査、そしてホールボディカウンターによる内部被ばくの測定を実施します。これ以外に小児科の医師が必要と判断したときは、神経科の医師の診察も受けます。2回目は小児科の診察を中心とした補足的な健診です。甲状腺に関しては1回目の検査だけでいいのか、2回目も受ける必要があるのかを内分泌の専門医が判断しています。 ホールボディカウンターは汚染地の病院や研究所など一部の医療施設に設置されていて、誰でも希望すれば受けられます。最近は子どもたちからセシウムが検出されることはほとんどありません。 検査で異常が見つかった子どもは病院を紹介されて、さらに詳しい検査を受けることになります。病気が慢性化して病院に定期的に通わなくてはいけない場合には、保護者も含めて交通費が無料になります。ベラルーシの医療は無料なので、治療費は必要ありません。
エレーナ・ボグダン ちなみに、18歳以上の大人に対しても健康診断は年に1回行なっています。
—— 日本では、事故当時18歳以下の福島県内の子どもたちを対象に、最初の甲状腺検査を2年半以内に、その後は2年ごとに一生涯健診することになっています。この検査回数や検査間隔をどう思いますか。
オリガ・リャーフ 私たちには日本政府が決めたことをとやかくいう資格はありませんし、評価することもできません。ただ、政府が決めたことを国民が黙っていれば承諾したことになります。もしも福島の母親たちが「それではダメだ」と思うのであれば、日本政府に対して声をあげていくことが大切だと思います。
エレーナ・ボグダン ベラルーシでは健康を見守るプログラムには健診のほかに保養があり、汚染地の子どもたちは毎年1ヵ月の保養に出かけられることになっています。健康な子どもたちは汚染されていない地域で安全な食品を食べながらゆったりと過ごし、リフレッシュして帰ってきます。慢性の病気を持っている子どもはサナトリウムへ行って療養をします。どちらもすべて国が費用を負担しています。
すべての食品を計測し、
証明書つきで販売している。
—— 放射能に汚染された食品を食べないためには、どのような策を講じましたか。
オリガ・リャーフ ベラルーシで市中に出まわる食品は、すべて国家機関によって放射線が測定されています。食品に含まれる放射性物質の規制値は、事故後から定期的に見直しが行なわれ、そのたびにより厳しい数値に改定されています。現在のベラルーシの規制値は国際的に見てもかなり厳しいのではないでしょうか(下表参照)。街の市場には放射線測定器が置いてあり、「規制値以下である」という証明書つきの食品だけが販売できます。自分の畑でとれた野菜や森でとったきのこも、市場の測定器で無料で測ることができます。ベラルーシ人は森できのこやいちごを摘むのが大好きなので、汚染された森には立ち入らないよう該当地には看板を立てて注意を促しています。
エレーナ・ボグダン 汚染地にある学校の給食は無料で提供されており、給食の食材ももちろん測定済みです。今回、日本に来て「ベラルーシの各学校には測定器が置いてあるのか?」と数人から聞かれましたが、それはないですね。学校に食材を納入する前にすべて測っていますから、学校に測定器を置く必要はないのです。
自然の多いベラルーシでは
除染が難しく断念した。
エレーナ・ボグダン ベラルーシは放射性物質の汚染の度合いによって、4つの地域に分けられています。1キロ平方メートルあたり1〜5キュリー(37〜185キロベクレル)の「定期的放射能管理地域」、5〜15キュリー(185〜555キロベクレル)の「移住権利地域」、15〜40キュリー(555〜1480キロベクレル)の「移住区域(警戒管理区域)」、40キュリー以上の「移住義務区域(居住禁止区域)」です。
オリガ・リャーフ 1〜5キュリーといった低レベルの汚染地でも、放射能汚染の状況が変わる可能性があるので、いまでも定期的に農地や道路、学校の校庭、公園など土壌の検査を続けています。
汚染された土地を改良するためのプログラムもあります。放射線生物学者がこの26年間にさまざまな実験を行ない、汚染された土地で育てられる作物は何か、どんな改良法があるかを研究しています。当初は、たとえば校庭の表面の土を削るなど除染にも取り組んでいましたが、ベラルーシは自然に恵まれた環境なので、森林や沼、川など放射性物質を蓄えやすい場所をすべて除染するのは難しく、いまはもうやっていません。40キュリー以上の高汚染地については、放射性物質の飛散を防ぐために、建物を取り壊して埋める、「埋葬」という措置をとることにしています。しかし、ここにも戻って暮す人がいるので、13地区のうち7ヵ所は埋葬できましたが、6ヵ所はまだそのまま残っている状態です。今後も住人がいなくなり次第、埋葬していく予定です
ベラルーシの経験から日本のみなさんに申し上げることができるのは、汚染地に住み続けなければならないのなら、その地でいかにして生きていくかを学ぶことです。そのためには、何事も落ち着いて考えること、汚染されていない食品を食べること、定期的に健康診断を受けること、できるだけ長期間の保養に出かけること。これらは私たちが行なってきた政策の中でうまくいっているものです。知っている範囲のことしかお話しできませんでしたが、参考になればうれしいです。
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