2013年7月27日土曜日
バンダジェフスキー博士 来日講演、〈内部被曝〉への警鐘.
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バンダジェフスキー博士が、7月20日、都内で『体内に取り込まれたセシウム137の医学的生物学的影響』と題する講演〔主催:バンダジェフスキー講演プロジェクト〕を行ない、およそ1000人の人たちが、チェルノブイリ原発事故による健康被害の事例に耳を傾けた。以下は、その要旨である。
◇◆◇ 1年ぶりの来日で感じること ◇◆◇
親愛なる皆さん、今回は2回目の日本訪問、そして(今滞在での)最後の講演になります。この会場にこんなに多くの人が集まったのは、福島原発後の事故後の状況、体内に蓄積された放射性物質に関する情報の少なさ等によるものと考えます。
1年前の来日時、(原発をめぐる)事態がうまく進んでいないのは、事故直後で時間が経っていないからだと私は思っていました。時間が経てば、原発事故であろうと何であろうと問題がきちんと処理されなければいけない――それは国家の義務でもあります。
しかし、2年経っても事故の状況は必ずしも明らかではありません。私のもとには、環境や食品に関心を持つ(一般の)人たちが来ていますが、政府関係者等からの問い合わせはありません。
昨日、外国人記者クラブ(日本外国特派員協会)で会見をしましまたが、ウクライナをはじめ海外の記者からたくさんの質問がありました。ところが、日本ではチェルノブイリ原発事故以降の汚染地域での人々の健康や生活の問題に、あまり関心が高くないようにも感じられます。
しかし、現地では決して見逃したり無視したりできない現象が今も起きているのです。チェルノブイリ事故以降の、放射性物質の人体への影響については日本でも私の論文が邦訳されていますから、興味のある人はどうぞそちらもご覧になって下さい(注1)。
(注1)バンダジェフスキー博士の論文は次の2つが邦訳されている。
【1】 『放射性セシウムが人体に与える医学的生物学的影響 ~チェルノブイリ原発事故 被曝の病理データ~』
【2】 『放射性セシウムが生殖系に与える医学的社会的影響 ~チェルノブイリ原発事故 その人口損失の現実~』
いずれも、合同出版から(定価各1800円)。
◇◆◇ 私の研究テーマ――「内部被曝」 ◇◆◇
今日は私の研究についてお話したいと思います。内部被曝が、人間の健康にどういう影響を与えるかについてです。
「シーベルト」の単位を使って外部被曝を測る方法はあります。原発作業員などは、高線量の外部被曝に注意して、そのデータを計測しますが、内部被曝はそれとは別のものです。内部被曝とは、体内被曝であり、体に取り込まれた放射性物質(例 セシウム)から放射線が出て人体に悪い影響を与えるというものです。
チェルノブイリでも福島でも、放射性物質が(原発事故で)空気中にばらまかれ、それらが降下して土壌に入り、さらにその放射性物質が作物に吸収されて、その作物を食べる人の体に入るのです。
人の体に入った放射性物質が、水や牛乳、その他の食物から体の中に入ってから蓄積するのには、何年もかかります。今日お話する放射性物質は、もともと自然界には存在しなかったセシウム137で、その半減期は30年です。
これらの放射性物質は、体内で生命維持に必要な細胞に悪い影響を与えます。それは外部被曝よりも、もっと深刻な影響です。本来、人間の健康に関わるIAEAやWHOは、この内部被曝をまったく無視しているのです(注2)。
【1】 P7~8より 「『弱い放射能』の考えは外部被曝だけに当てはまる。放射性元素が体内に取り込まれた内部被曝では事態は一変する。その影響はかなり大きく、放射性元素の崩壊による放射線とそれが生体組織と細胞の代謝過程にもたらす毒作用が問題になる。(略)しかし、体内に取り込まれた各濃度の放射性元素が生体全体や個々の臓器系に与える影響についてはまったく無視されてきた」
(注2) 【1】の論文では、豊富なデータとともに「1心血管系」「2腎臓」「3肝臓」「4免疫系」「5造血系」「6女性の生殖系」「7妊娠の進展と胎児の成長」「8神経系」「9視覚器官」の9つに分けて、セシウムと各器官への影響が紹介されている。
1986年のベラルーシ共和国 セシウム137による汚染マップを使って説明するバンダジェフスキー博士
◇◆◇ 汚染地での健康被害そして人口減 ◇◆◇
ベラルーシでは、1993年以降、死亡率が出生率を上回り、全体として人口増減がマイナスになっています。1994年から2008年まででベラルーシの人口は約60万人減りました。これは、人口全体の5.9%が減った計算になります。
ベラルーシには1990年代に約1000万人の人がいましたが、そのうちの66万人が亡くなりました。いまも減少の一途をたどっています。
特に汚染の強いところ、チェルノブイリ原発事故でもっとも被害が大きいとされたゴメリ州ベトカ地区では、子どもの疾病率が高く、大半の子どもが亡くなっています。
こちらの2005年のウクライナの死亡率を示す図表〔注:本記事では略〕を見てください。チェルノブイリ原発から30キロの場所にある(ウクライナの)イワンコフ地区では人口1000人当たりの死亡率が30%を超えています。2008年のベラルーシでは、死因の52.7%が心血管系疾患で、がん等よりも数が多いのです。イワンコフ地区では(心血管系疾患が死因の)70%を超えます。
【1】 P15より 「とくに、心血管系疾患で死亡した患者の心筋には、消化器の疾患で死亡した患者より、確実に多くのセシウム137が蓄積していた」
【1】 P17より 「放射性セシウムが人体の臓器や組織に取り込まれると、明らかな組織的代謝的変化が起こり、個々の臓器の異常と生体全体の疾患を伴うようになる。放射性セシウムは、重要臓器や組織に侵入するので、体内にセシウムが少量でも取り込まれると、生体にとって脅威となることは避けられない」
【1】 P18より 「チェルノブイリ事故後、突然死したゴメリ州の患者の部検標本を検査したところ、99%の症例で心筋異常が存在することが明らかになった。とくに注目すべき所見は、びまん性の心筋の異常で、これはジストロフィー病変と壊死の形態をとり、毒作用が働いている証拠である」
◇◆◇ 「きれいな土地」に住む人たちへの健康被害 ◇◆◇
深刻な状況は、汚染地の人たちだけではありません。放射性物質を含んだ食品の流通によって、汚染を受けていない、“きれい”な地域の人たちにも疾患が広がったのです。
私は、ゴメリ医科大学で10年間研究を続けましたが(注:1990年~、1999年に逮捕、2001年に収監)、政府は汚染食品を国中に流通させ、子どもたちが体内被曝(内部被曝)したのです。本来は、人々の健康に責任を持つべき国が何もして来なかったし、今も(政府は)何もしていないのです。
体内被ばくのモニタリングも、1998、1999年に弾圧を受けて、モニタリング(データを集めること)が行なわれなくなりましたが、チェルノブイリ事故による複数の汚染地で、被曝の状況と人々の健康や病変について注目していたので、内部被曝と健康被害について私たちは考察することができるのです。
子どものがんの発症は、2000年から2008年の8年間で2倍になりました。原発事故の後、放射性ヨウ素を取り込んで、甲状腺がんが増えて来ました。ベラルーシでは、21世紀になって生まれた子どもたちにもがんが発症しています。
【1】 P47~48より 「1987年から1997年にかけて、ベラルーシ共和国では、腎臓がんの症例数が2.4倍、甲状腺がんの症例数は3.5倍、直腸がんの症例数は1.4倍、結腸がんの症例は1.6倍に増加した。胃がんの症例数は、実質上変わらなかった。同時期に(1987~1997年)、ゴメリ州では、農村部の住民で腎臓がんが4倍に、都市部の住民で2.2倍に、肺がんは農村部の住民で1.6倍、都市部の住民で1.5倍に増加した」
「どんな量の放射性セシウムでも発病の原因になり得る。すなわち現在の基準はもっと厳しくすべきで、食品中の放射性セシウムの許容基準を下げて行政基準にすべきである」(【1】P51より)
◇◆◇ セシウムの、心血管系への影響 ◇◆◇
放射性セシウムが体内に取り込まれるとどうなるか――実験用動物の心筋組織では、(アルカリフォスファターゼやクレアチンフォスフォキナーゼのような)酵素の活性が抑えられ、その結果として心筋の収縮機能に、筋原繊維の萎縮などの病変が現れるのです。
セシウムが体内に入っていない子の80%は心電図が正常でしたが、セシウムが蓄積されて、10ベクレル/kgを超えると、心電図が正常な子どもは半分に減り、100ベクレル/kgになると、正常な子どもはほとんどいなくなります。
私たちはこれらの研究データをもとに公的な機関(行政機関)に働きかけましたが、行政は私たちの言うことに耳を貸さず、(私がゴメリ医科大学の学長を務めた)10年間で何も変えられませんでした。
【1】 P18より 「3~7歳のゴメリの子どもたちでは、放射性元素の体内蓄積濃度が平均で30.32±0.66Bq/kgに達し、心電図異常の頻度が体内の蓄積量に比例することが明らかになった。(略)心電図の診断と同様に、さまざまな量のセシウム137を体内に取り込んだ子どもたちの血圧を分析したところ、体内蓄積量との相関関係が認められた。」
◇◆◇ 内部被曝のモニタリング体制確立を ◇◆◇
私が言いたいことは、体内に蓄積された放射性物質の測定を行なわなければいけないということです。その体内被曝の量が明らかになれば、1990年代のゴメリ地区で私たちが集めたデータ ―これは(原発事故が原因で)亡くなった子どもたちが遺してくれた貴重な資料なのです―と照合して、どのようにすれば健康に過ごせるかが対策を考えることができます。
(福島原発事故の起きた日本でも)「体内被曝」のモニタリングシステムを確立しないといけません。そうすれば、日本においても、住民の健康について、ある程度の予測が立てられるようになります。(注3)
(注3) 講演後の質疑応答で、「福島の子どもたちにのう胞や結節が見つかっていること」について質問が出たが、「体内被ばくの具体的データが無いと何とも言えない」とバンダジェフスキー博士は答えていた。 但し、講演会でバンダジェフスキー博士は「突然死」した40代の2人の男性を紹介したが、その内部被ばくの値は、ひとりは45ベクレル/kg、もう一人は142.4ベクレル/kgとひらきがあった。
◇◆◇ 女性への影響 ◇◆◇
次に、若い女性のホルモン分泌と体内に蓄積されたセシウム137との関係について紹介します。
体内に蓄積されたセシウムが40ベクレル/kgのグループは、女性の体から分泌されるエストラジオールが有意に少なくなっています。その40ベクレル/kgのグループでは、プロゲステロンについては逆に多くなっています(注:詳細は、【2】論文あるいは【1】のP34~35を参照のこと)。
つまり月経周期のホルモン分泌が正常でなくなり、それがいろいろな重大な病気の原因になるということです。ホルモン分泌が異常になれば、正常な受精が出来なくなりますし、胎児も健康に発育できません。
セシウムが生殖器に与える影響については、それをまとめた論文がありますから、ぜひそちらを見てください(注:合同出版『放射性セシウムが生殖系に与える医学的社会学的影響』のP12~15及びP39等)
◇◆◇ 胎児への影響 ◇◆◇
胎児の先天的異常は、「10万人当たりの新生児の異常」が2000年の「359.5」から2008年の「558.7」へと、8年で1.5倍に増えています(注4)。口唇裂のような異常の他に、心臓や脳の先天的異常も見られます。動物実験では、160ベクレル/kgで脳や心臓の奇形が多く見られました。
(注4)【2】論文P9にも同じ記述がある。
【1】 P37~38より 「統計データでは、セシウム137で汚染された地域の住民の間で、先天性欠損の数が年々増加している。多因子性の欠損がもっとも多いが、それは遺伝的素因と特別な環境要因の両方の産物である。(略)神経性の先天的奇形(無脳症、脳瘤)を持つ胎児で放射性元素の分析をしたところ、ほかの胎児と比べてセシウム137の胎盤濃度が際立って高かった」
体内にセシウムが入りさえしなければ、先天性奇形や、臓器に対する悪い影響は現れません。例えば、妊娠中はセシウムで汚染された食物を食べないことなどもそうですが、
○ 食品全般の放射線検査
○ 体内被曝量の検査
この2つの実施が、今後、特に重要です。
ゴメリ州ベトカ地区の1996~1997のデータによれば、体内セシウムが50ベクレル/kgの子どもたちの30%に白内障が見られましたが、このデータを提供してくれた子どもたちのほとんどがすでに亡くなっています。少量の体内被曝が、結果として彼らの命を奪ったのです。
イワンコフ地区でも内部被ばくを予防するためのプロジェクトが始まっていますし、ヨーロッパでもそうです。その「人々の健康を守るためのプロジェクト」は、福島の人たちにもひらかれています。
チェルノブイリの周辺地域で見られたような人口減が日本では起こらずに済むこと、若い世代の健康を守られ、希望が与えられることを願っています。
(了)
〔 後 記 〕
バンダジェフスキー博士の講演を聴いて、特に次の3点が印象的だった。ひとつは、放射性物質の影響が「甲状腺がんの増加」といった単一の現象だけではなく、体のあらゆる臓器に対して、悪い影響が出るということ。ふたつ目には、2000~2008年で胎児の異常が1.5倍 「21世紀になって生まれた子どもにも異常」等、1986年のチェルノブイリの悪影響が非常に長期にわたって及んでいること。 そして、国の無策(無策だけではなく博士自身への政治的弾圧や被害の隠蔽)によって被害が今も拡大していること、の3つである。 ――そう言えば、福島の原発事故直後の、あの言葉が思い出される、「健康には直ちに影響はありません」 まったくその通り、バンダジェフスキー博士は放射性物質が体内で長い時間をかけて蓄積することで、あらゆる臓器に深刻な影響が出ることを客観的データで示してくれた。
《 備 考 》
◎ 会場外で「内部被ばくをウクライナ製の椅子型検査器ANTIDOZAで測定する」というチラシを配っていたNPO団体によると、その検査器でセシウム134と137、それにカリウムの体内の値を10分前後で測定できるという。チラシによれば、検査費用は4500円(割引価格)とのこと。
◎ バンダジェフスキー博士が取り上げた〈 内部被曝 〉については、同博士の著作の他、次の新書が非常にわかりやすい(同書P 51には、バンダジェフスキー博士の研究について言及がある)。
肥田舜太郎 著 『内部被曝』 (扶桑社新書)
《関連サイト》
◎ ウェブ上で見られるバンダジェフスキー博士の研究について
http://fukushimavoice.blogspot.jp/2013/02/test.html
◎ 哲野イサク氏による、ウクライナ等の人口増減問題レポート
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/genpatsu/ukraine1.html
◎ 消費者庁 「食品と放射能Q&A」 〔下記サイトの(6)〕
http://www.caa.go.jp/jisin/index.html
《関連記事》
◎ 肥田舜太郎氏 講演
http://www.janjanblog.com/archives/81777
◎ 2012年9月にチェルノブイリ近郊を訪れた郡司さんの報告
(チェルノブイリ原発から70キロ離れた保育園での、園児130人の現状)
http://www.janjanblog.com/archives/81575
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